ペーパル

TOP ならわい2023米、にんじん、ビール……廃棄食材を紙に。アップサイクルペーパーから商品を考える

米、にんじん、ビール……廃棄食材を紙に。アップサイクルペーパーから商品を考える

どんなプロジェクト?

1890年創業、関西で紙の卸売事業を展開する株式会社ペーパル。 2022年に、廃棄米を原料とするアップサイクルペーパー「kome-kami(こめかみ)」を開発。 ここで、取締役の矢田 和也さんとともに商品企画に取り組んでいきます。

BONCHIからは車で15分。工場や倉庫が建ち並ぶ奈良市池田町にペーパルがあります。

ここに本社を構えたのは2000年のこと。

当時は4,354m²だった敷地面積も、現在は約4倍の16,797m²に。

奈良だけでなく、大阪、京都、滋賀、三重、和歌山、兵庫で卸売事業を展開しています。

そして新たに着目したのが、環境配慮型の商品開発でした。

2022年、パルプに廃棄米の繊維を混ぜ合わせた素材「kome-kami(こめかみ)」を開発。

廃棄されてきた原料から新たな価値を生む「アップサイクルペーパー」としてラインナップを増やしつつあります。

ペーパルってどんなところ?

東北、東海、山陰……日本各地の製紙工場から集められた紙が保管されているペーパルの倉庫。

「流通の役割は、ダムに似ています。」と、取締役の矢田 和也さん。

どういうことだろう?

「水道の蛇口をひねったら水が流れるように、ほしい紙をほしい時に提供できるのが流通の価値。倉庫を広げることは、自分たちの価値を増やすことなんです。」

デジタル化の流れを受けて、日本全体の紙需要は減少傾向にある。一方で卸売問屋の廃業もあり、ペーパルは順調に業績を伸ばし続けている。

矢田さんが家業に入ったのは、2019年のこと。31歳だった。

「子どもの頃は会社に来ることもあまりなくて。紙のことは、この4年ほどで学んでいきました。」

それまでの話を聞いてみる。

「ちっちゃい頃からものづくりが好きで。週末には父と一緒にモーターをつくったりしましたね。」

「高校生のときにたまたま観た映画で、プログラマーという職業を知ったんです。すごいことやってるな、かっこいいなって。北海道大学の情報系学科に進みました。」

大学在学中には、麻雀初心者を支援するアプリを開発。スマートフォンで手牌を撮影すると、適切な捨牌候補をAR(拡張現実)によって表示するというもの。

このアプリが、北海道経済産業局主催のコンテストで優秀賞を受賞した。

「面白いものをつくって注目されるのって楽しい。その経験が、今に繋がってるのかな。」

卒業後は、富士通株式会社へ就職。6年間、企画やプロジェクトマネージャーの仕事をしてきた。

ここでも、新しい価値を生むプロジェクトに関わる。

「Webメディアの立ち上げを丸ごと任されるような、0から取り組む仕事も多くて。離れるのが惜しくなるぐらい(笑)、ほんとうに楽しかったです。」

大切にしていること

ペーパルで最初に取り組んだのは、業務を効率化するための仕組みづくり。

卸売業の成長に伴い、現場の負担も増えていた。業務フローを把握することで、会社への理解も深めたかった。

「まず、全業務をフロー図に落とし込みました。その上で、ボトルネックを洗い出し、システムを導入したんです。」

業務の効率化がひと段落したところで、自社製品開発を考えはじめた。

「関西を商圏とする流通機能としての価値を核にした成長をつづけていますが、さらに成長を加速させるにはどうしたらいいか?全国で弊社だけが販売できる自社商品を持ちたいと思ったんです。」

Startup Weekendというイベントに参加した矢田さんは、ビジネスを通じてフードロス問題に取り組む滋賀大学の山下 悠准教授と出会った。

「紙には、パルプの繊維と繊維を接着するためにデンプンが使われています。この事実から発想を得て、廃棄米を使った紙を開発してみることになりました。」

矢田さんは、江戸時代以前の和紙づくりを調べるうち、和紙と米の深い関係を知る。

「日本では、古くから、米を使った和紙づくりが行われてきたんです。」

和紙づくりの文化が花開いたとされる江戸時代には、古紙を再利用する際の漂白剤やにじみ止めとして、米が使われた記録がある。

産業革命以降、工業化に伴い安価な洋紙が日本でも普及していく。

「米を使った洋紙を、現代で実用できる品質と価格を実現することで、普及させたい。かつての日本にあった文化を、ちょっと新しい形で生まれ変わらせたいんです。」

1年間かけて試作を繰り返して、生まれたのが「kome-kami(こめかみ)」。

蛍光材不使用の自然な風合いに、落ち着きを感じる。

売れ行きは順調だったのでしょうか。

「最初の3ヶ月間は、あまり動きませんでしたね(笑)。営業担当の社員も『ちょっと難しいんちゃうか』と思っていた人もいたみたいで。まぁ、その空気はぼくにも伝わっていました。」

「同時に、根拠のない自信がありました。環境配慮型の素材が求められているのも肌で感じていたので。紙業界のトップバッターとして取り組んだら、いけるんじゃないかなと。」

次第にメディアで取り上げられる機会が増え、注文もいただくようになった。

kome-kamiはどんなニーズを捉えたのだろう。

「サステナィブルなイメージを普及したい企業の会社案内やポストカード、展示会の紙袋が多いですね。それから、和菓子屋さんとか酒造さんのパッケージにも。kome-kamiを選ぶことそのものが、ブランディングにつながります。」

環境配慮型の素材として、プラスチックに代わり注目されつつある紙には、次の特長がある。

まずは、植林により循環可能な資源であること。次に、プラスチックに比べて二酸化炭素排出量が少ないこと(ペーパルによるLCA評価では、プラスチックファイルを紙ファイルにすることでマイナス96%)。そして、土に還る素材であること。 

kome-kamiの特長を最大限に活かしたのが、奈良公園に設置された「自販機用鹿せんべい」のパッケージだ。

夜間や早朝の奈良公園では、鹿せんべい以外のエサを観光客が与えてしまうことで、鹿の病気が発生していた。

奈良県ビジターズビューローから相談を受けて、商品化に至った。

「お土産として持ち帰れるものにしました。また、万が一ポイ捨てされてしまった場合のことも考えています。」

「かなりしっかりした箱なので、硬すぎて鹿はまず食べません。万が一鹿がパッケージを噛んだりしても、蛍光材不使用のため特に影響は出ません。念には念を入れてつくっています。」

ならわいで取り組むプロジェクト

今回は、どんなプロジェクトに取り組むのでしょうか。

「アップサイクルペーパーは、いろんな原料からつくれるんですよ。今後、シリーズ展開をしていきたくて。一緒に商品企画に取り組んでもらえたらと思うんです。」

ここで、例として手渡されたのは茶色い紙。

「この紙もアップサイクルペーパーの一つです。何が原材料だと思います?」

茶色いから……うーん、(ダメもとで)キノコとか?

「残念。ビールです!」

ビールですか?

「ブルワリーから廃棄されるモルト粕(かす)が原料です。」

「クラフトビールが大好きな友人と共同開発したんですよ。彼は横浜でシステム開発の会社を経営しているんですが、サステナブルな事業をはじめたいと相談を受けて。」

廃棄されるモルト粕(かす)からできた紙素材は「クラフトビールペーパー」としてリリースされた。

アップサイクルのストーリーを活かして、ビールメーカーにコースターやポストカード、ビール用の紙袋として卸してもらうようになっている。

ちなみに、原料の条件はありますか?

「有機物で、pHが中性に近く、油分が少ない原料。この3つをクリアしていれば、製造できる可能性が高いです。」

プロジェクトの流れを知りたいです。

「まずは使いたい原料を決めていきましょう。」

すでに廃棄食材などを抱えており、その用途を考えている人もいるかもしれない。もちろん、ならわいを機にリサーチを行い、原料を見つけていく人も歓迎したい。サスティナブルを切り口にしてもよさそう。

提案を行う上では、原料の配送ルートや販路の見通しもあると、より商品化しやすくなるとのこと。

また、今回は次のような人にも来てほしい。

「商品企画やマーケティングに携わっていて、環境配慮型の冊子、ノベルティやパッケージをつくりたいというような方にも来てほしいです。」

ならわいでの企画提案が、採用されることもある。

その場合は、矢田さんとともに原料の供給元へ訪ねていき、一緒にアップサイクルペーパーの試作に取り組んでいくことになる。

アップサイクルペーパーを通じて、起業をする人も現れてほしいと矢田さん。

「この商品の良いところは、一度製品化すると、その後のオペレーションがおまかせなところ。商品在庫はペーパルの倉庫に保管して、注文が入るごとに、加工会社に配達します。印刷物やパッケージにてもらった後、完成品の出荷までします。販路の相談にも乗りますよ。」

「紙業界って東の出版、西のパッケージと言われていて。関西にパッケージをつくる会社が多いんです。奈良に住みながら、東京の仕事をする。kome-kamiではそれが日常なので、そういうことだって夢じゃないと思いますよ。」

本当に何か起こりそうなプロジェクトです。我こそはという方、ぜひ挑戦してみてください。

(2023/4/14 インタビュー)

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