
どんなプロジェクト?
奈良市に拠点のある市民団体「たんぽぽの家」を母体に、2016年に誕生したGood Job!センター香芝。
障害のある人とともに、新しい仕事や働き方に取り組むこの場所には、日本各地から人が訪れてきます。
奈良県内の点と点をつなげて巡り、訪れる人の視点が広がる観光を、ここで働く人たちとともに描いていきます。
奈良市を拠点として活動する市民団体「たんぽぽの家」。
支援者の一人から土地の寄贈を受け、香芝市に初めての拠点が誕生しました。
BONCHIからは車で約40分の奈良県香芝(かしば)市。
78,668人が暮らすこのまちに、Good Job!センター香芝はあります。

Good Job!センターは「伝統工芸と3Dプリンター」、「アートとビジネス」、「障害のある人と地域の学生」といったいろんな人と要素が交じり合うところ。
その重なりから、新しくて懐かしい未来が始まっています。
Good Job!センターってどんなところ?
建物の外観を撮影していると、窓越しに中の雰囲気がなんとなくうかがえる。
時計は10時前。どうやらメンバーの方やスタッフさんたちが、始業の準備をしているみたいだ。
中に入ると、ひとつながりの空間が広がる。

工房や事務所の間にさりげなく木の建具があるおかげで、お互いの雰囲気は感じつつも、それぞれの仕事に安心できるようになっている。
事務所で、ワンコールで電話を取り次いでくれるのは、今日のコンシェルジュの得ちゃん。

工房で鹿コロコロを仕上げる廣瀬 仁勇さん。

2階にある流通部門で、紙袋に文字を描く安田 真隆さん。

色々な人が働くGood Job!センターをとりまとめるのが、センター長の森下 静香さん。カフェで話をうかがった。

「わたしは、石川県出身です。新潟の大学を卒業したのち、縁あって『たんぽぽの家』で1年間の住み込みボランティアをしていました。その後、就職したんです。」
たんぽぽの家は、Good Job!センターの活動母体にあたる市民団体。
「今年、50周年を迎えるんですよ!障害のある人たちが、高校卒業後に生きがいを持って働ける場をつくろう、とはじまりました。」
1980年には、奈良市六条地区に拠点が誕生。のびのびと過ごせる居場所をつくると同時に、地域を豊かな場にしていくことをめざしてきた。
「施設の中だけでなく、地域そのものも、もっと暮らしやすいものであるようにという考えがありました。」
求められたのは、おなじ地域に暮らす人との関係がほぐれていき、共感が生まれること。
その手段の一つが、アートだった。
たんぽぽの家の第1号プロジェクトは、障害のある人たちの詩にメロディをつける「わたぼうし音楽祭」。

「国の福祉制度を整えていくことも大事だと思います。でも、わたしたちはアートを通じて、おなじ地域に暮らす身近な人の気持ちに働きかけていきました。」
2012年には「Good Job! プロジェクト」が動き出した。これは、アート・デザイン・ビジネスの分野をこえて、障害のある人と一緒に新しい仕事や働き方をつくる取り組み。
「プロジェクトが盛り上がっていき、『もっといろいろ試せる場がほしいね』という声が上がるなか、支援者の吉本昭さんから土地を寄贈いただいたんです。」
Good Job!センターの立ち上げ準備が始まったのは、2014年のこと。
ものづくり、流通、アトリエ、カフェの仕事ができるスペースをつくるという大枠は決まっていた。
「けれども、ものをつくるにも、どのような商品をつくっていくかなどは、明確には決めていなかったんです。」
そこへ、創業300年を目前にする中川政七商店から相談を受ける。
「100年後に残る郷土玩具をつくってほしい、と声をかけていただいたんです。」
これが、のちにGood Job!センターの看板商品の張り子「鹿コロコロ」へとつながる。

中川政七商店がつくりたいと考えたのが、鹿をモチーフにした張り子の鹿だった。
しかし、準備を進めるうち、張子の木型をつくる職人さんが減り、奈良で新しい型をつくるのは難しいことがわかった。
その頃、ちょうどGood Job!センターでは、工房に3Dプリンターやレーザーカッターの導入を検討していたこともあり、3Dプリンターで木型の代わりとなるものをつくれないかと考えた。
まずは3Dプリンターで樹脂製の型をつくる。そこに、いろんな人の手を加えていく。



そうして、鹿コロコロが誕生した。
張子人形は、Good Job! センターの看板商品として、さまざまなバリエーションが生まれている。

森下さんは、7年間を通じて、「福祉×伝統工芸」の可能性を感じている。
「日本各地の伝統工芸が人手不足に直面するなかで、福祉施設が地域の工房として機能するんじゃないか。」
「ものづくりの道具やスペースがあって、障害のある人も、近所に住むボランティアや学生たちも一緒にものづくりに関わる。その重なりから、新しい働き方や仕事が生まれると思います。」

大切にしていること
誰しも得意・不得意や、長所・短所はあるもの。不得意を補うことも大切だけれど、新しい仕事は、得意なことや好きなことを活かし合う中で生まれていくのかもしれない。
そう思ったのは、ここに通うメンバーの一人である池田 永遠(とわ)くんの話を聞いたから。
張り子の原型づくりには粘土を使うことがあり、池田くんも粘土で造形していたこともあった。あるとき、Good Job!センターのあちこちにガンプラを配備しだした。

その様子を見て、「ねん土は苦手だけど、プラモデルづくりは得意なんだ。」と一人のスタッフさんが気づいた。
そこで池田くんに、ペン型のデジタルツールを使った、3Dモデリングでのものづくりを提案する。
すると池田くんは、自らが描いたイラストをもとに、デジタルツール操作して、パソコン画面で立体化した「ふでうさぎ」というマスコットの原型をつくった。

これは、“とんとんずもう”にヒントを得て、うさぎの立ち姿を形どったもの。ネーミングは、うさぎの毛が筆に使われてきたことにちなんでいる。
池田くんの案をもとに、何人ものメンバーが得意を持ち寄ってブラッシュアップを重ね、商品化へとつながった。

こうして、立ち上げ当初には思い描いていなかった仕事がつぎつぎと生まれている。
ここで再び森下さん。
「わたしの肩書きは“センター長”ですけど、本当にできることは少なく、いつもGood Job! センターのメンバーのことをすごいなと思ってみています。」
「Good Job!センターでは、Web構築が得意。砂糖をグラム単位で計量しておいしいチョコレートケーキを焼くのが得意。絵が得意……それぞれが得意な人たちが集まって、チームとして、日々働いているんですね。」

ならわいで取り組むプロジェクト
国内外でさまざまなプロジェクトに取り組むGood Job!センターには、日本各地から人が訪れてくる。
そこで、次のプロジェクトに取り組んでいきたい。
「Good Job!センターを訪れる人に、第2、第3の目的地を紹介できるようになりたくて。奈良県内の点と点をつなげて巡ることで、訪れる人にものづくりを起点に奈良をもっと楽しんでもらえるような、また、地元の人にも新しく出会ってもらえるような観光をつくりたいんです。」
アウトプットについては、どんな形をイメージしていますか?
「マップをつくってもらえるのも嬉しいのですが、できればなんらかの形でビジネスとして成立するものにしたいです。」
「日本各地の福祉の現場を巡るGood Job! Travelのプランとして採用させてもらう可能性もあります。」

ちなみに、Good Job!センターにはどのような人が多く訪れるのでしょうか?
「アートやクラフトに興味がある人、福祉を学びたい人、建築が好きな人が多いですね。」
福祉の要素をどう盛り込んでいくのかも自由。参加者に任せていきたい。
たとえば、広義の福祉の視点で訪問先を選んでいく。
高齢者とともに地域に根ざしたものづくりに取り組む事業者を訪ねる。農福連携の現場を訪ね、その食材を吉野杉の一枚板のカウンターテーブルでいただく。疲れたら、Good Job!センターのプロダクトが納められている宿で一休み。
あるいは、Good Job!センターのメンバーとともに、訪問先のインタビューに行くのもよさそう。
「史跡や寺社を巡ってみたっていいかもしれませんね。」と森下さん。
県内には、奈良時代に生活困窮者や孤児を受け入れた寺院もあるよう。
訪問先を選ぶ際は、参加者から進んで「ここを訪ねてはどうだろう?」と、提案することが期待されている。
Good Job!センターでのプロジェクトは自分の足で現地をめぐってこそ、よい企画が生まれていきそう。
「奈良の各地を巡り、人や場所に出会う機会を探していた。」という人に、ぜひ参加してほしいです。
(2023/4/12 インタビュー/大越はじめ Good Job! Travelの写真/衣笠名津美 香芝市の人口は、2023/3/31時点です。)