
最終発表@奈良市
ならわいは、県外在住の参加者と奈良の企業がともに、新規事業(なりわい)づくりに取り組むプロジェクトです。
奈良で働き・暮らすという選択肢を増やすため、「移住×起業」を提案するプログラムとして、2022/10/15にキックオフを迎え、4ヶ月間にわたって新規事業に取り組んできました。
1/14に開催された第5回目は、受入先企業に向けた最終発表です。
「プレゼンテーションの山場をチェックしよう。」「試作品を、どのタイミングで披露したら効果的?」

会場である「BONCHI」には、早めに集合して、発表の最終調整に取り組む参加者たちの姿がありました。
1/15のスケジュール
14:00- はじめに
14:05-ゲストトーク
15:00- チーム発表
16:00- 受入先企業に聞いた「ならわい」
16:30- 参加者のこれから
17:00- むすび
懇親会
はじめに
4階のコワーキングスペース「TEN」には、運営事務局のみなさんから地域の企業の方まで、30人以上が集いました。

開始のあいさつをしたのは、奈良市役所産業政策課の柏木さんです。

「はじめに、受入先企業のみなさんへお伝えしたいことがあります。
企画段階で思っていた何倍も、参加者に近い立ち位置でならわいに関わってくださり、ありがとうございます。
みなさんが参加者と一緒に話し合う姿を見て『受入先企業のみなさんも、チームの一員なのかな?』と勘違いしそうになるほどでした。」
「そして参加者のみなさん。自身の日々の仕事と並行してのならわいづくりは、とても大変だったと思います。それでも、よく頑張りましたね。
特に、12/10の中間発表から今日までの1ヶ月間は、怒涛の勢いでした。Slackのやりとりを見ているだけでも、みなさんの熱い思いが伝わってきました。
今日はその熱意を、受入先企業さんにダメ押ししてもらえたらと思います!」
チーム発表
ゲストトークを終え、各チームからの最終発表に移ります。
清澄の里 粟
大和伝統野菜を受け継ぐ農家レストラン「清澄の里 粟」。
ここで種から育てる母の味「藁灰こんにゃく」を、顔の見える人たちに届けるパッケージ・リーフレット制作に取り組みました。

清澄の里 粟を営む三浦雅之さん・陽子さんが見守る中、発表がはじまります。
清澄の里 粟チームのみなさんは、全員が県外出身者。奈良でのより深い関係をつくるため、ならわいに参加しました。

「清澄の里 チームです。よろしくお願いします!わたしたちは、10/16のフィールドワークで清澄の里 粟を訪問しました。」

「この日は、こんにゃく畑で収穫体験をしてから、三浦さんの料理をいただきました。」

「そこで、今まで食べていたこんにゃくとの違いに大興奮しました。食後には、製法を三浦さんにうかがいました。」

「その時点で決まっていたのは、3玉1000円という価格と、粟の店舗でのみ販売するということでした。」
そこで、次の3点を考えていきました。

商品名
「ふだん、スーパーで買うこんにゃくって、1玉100円程度だと思います。価格だけを比べると、粟のこんにゃくは割高な印象を受けます。」
「でも、製法も味わいも、まったく違うんです!『この興奮は、どうやったら伝わるんだろう?』と考えた私たちは、価値が伝わる商品名を考えるところからはじめました。」
「候補に上がった商品名は、100案を超えます。『こんにゃくはどのように日本へ伝わったのか』『海外ではどのように呼ばれているのか』など、こんにゃくに関するありとあらゆる情報を徹底的に調査しました。」

「その上で提案する商品名は、『人手間蒟蒻』です。」

「ひとてまこんにゃく、と読みます。その理由を説明します。」
「清澄の里 粟では、こんにゃく芋の栽培から収穫、そして加工までを“人”の手で行います。藁灰(わらばい)をもちいたこんにゃくづくりは、気温や湿度といった気候風土にも左右されます。とても大変なため、今ではほとんど行われていません。」
「ていねいで、その人にしかつくれないという意味を“手間”の二文字に込めました。」
体験の設計
「また、どんな人が手にとって、お店の人とどんな会話を交わし、購入に至るのか。自宅で食べるのか?あるいは、親しい人へのお土産にするのか?そして、どんな料理にして食べるのか?食卓までをイメージした購入体験の設計にも取り組みました。」
「そこで、リーフレットには食べ方の提案も載せています。」

デザイン

商品名と体験の設計をふまえ、デザインに落とし込んだのは、参加者のイラストレーター・井上さんです。
「人手間蒟蒻というネーミング案が上がってきたとき、わたしの第一声は『どうしよう!』だったんです。漢字五文字が続くため、明朝体やゴシック体で文字を組んでしまうと、堅苦しくなってしまいます。」
「どうしたら、粟さんになじみつつ、手に取りたくなる商品ができるのか。そこでまずは、粟さんのテーマカラーである蘇芳色(すおういろ)を用いました。また、やわらかいイメージを与えるため、丸型のシールやリーフレットに、手書き文字を添えました。」
受入先企業の声
さて、受入先企業の反応は? 清澄の里 粟 三浦雅之さん・陽子さんに話をうかがいました。

「すばらしいデザイン……ありがとうございます!奇跡的なパッケージが生まれたのは、知的な小掠さん、奈良に合う感性を持ちあわせた中島さん、そしてイラストレーターの井上さん。3人の特長が重なった結果です。」
事業化のポイント
4ヶ月間にわたりチームのメンターとして活動してきた安田翔さんに、事業化のポイントを聞きました。
「粟でこんにゃく料理を食べた人が、手に取りたくなるお土産」をどうデザインするか。
クリエイティブワークはクライアントさんの思い、お客さんの気持ち、そして介在している3人の思いをいかにトライアングルしていくかがポイントです。
フィールドワークの直後は、3人の思いが前面に出過ぎている印象でした。
そこで、早い段階から三浦さんにフィードバックをいただきました。そうして、回を重ねるごとにブラッシュアップを重ねていきました。
啓林堂書店
奈良県に書店5店舗と学習塾1校をかまえる啓林堂書店。
その3代目・林田幸一さんが新規事業の根幹に据えるのは「すべてのブックライフによりそう」というミッション。「売る」にとどまらない小売店のかたちを模索しました。
啓林堂書店の林田幸一さんが見守る中、発表がはじまります。

参加者の田中さんと朝日さんはともに奈良県出身で、じつは同じ学校出身という縁も。

「啓林堂書店チームです。よろしくお願いします!啓林堂書店のプロジェクトは、『ブックライフサイクルに関する新規事業提案であればなんでもよい』という自由度の高い設定でした。」
「また、林田さんからはならわいで取り組む新規事業に『ゆくゆくは啓林堂書店の第二の柱として育ってほしい』という話もありました。」
「そこでわたしたちは、2段階の提案を行います。」
「まずブックライフサイクルとは、本に『出会う』『手に入れる』『読む』『感じる』『手ばなす』というカスタマージャーニーのステップを細分化したものです。」

「はじめに、新規顧客獲得ではなく、リピーターの方との関係性を深化したいと考えました。その上で、ならわいでどのステップに取り組んでいくのかを考えました。」
「読書好きの方にインタビュー調査を行ったところ、『人に本をおすすめされたい』『誰かと感想をシェアしたい』といった声が聞こえてきました。」
「そこで、書店を訪ねたお客さまがいろいろな本と『出会う』ための提案を行います」
「店頭POP」

「啓林堂書店のメイン顧客層は40-50代の女性が中心です。そこでわたしたちは、お客さんがつくる店頭POPによる書店づくりを提案します。」

「なぜお客さんがPOPをつくるのか。この提案はPOPをきっかけとして、書店におけるコミュニティを形成していくことが目的です。」

「実は……創業当時、啓林堂という社名には『ひとが啓き集まる』という意味が込められていたそうです。」
「かつては『本を買う』場として、たくさんの人が集まってきました。これからはPOPを軸として、本に『出会う』『手に入れる』『読む』『感じる』『手ばなす』というそれぞれのステップで『ひとが啓き集まる』場所をめざします。」
「さらにこの提案には、続きがあります。」
第二段階「顧客ニーズを捉えた書店へ」
「店頭POPの活用が定着してお客さんとのつながりを構築した段階で、会員証アプリサービスを導入します。これにより、お客さん一人ひとりのニーズに寄り添った書店となります。」

「低い利益率や、実店舗の存在意義といった啓林堂書店が抱える課題は、全国の書店に共通する課題でもあります。奈良での成功体験をもとに、ゆくゆくはブックライフサイクルの新規サービスを全国展開していけたらと思います。」
受入先企業の声
さて、受入先企業の反応は?啓林堂書店 林田幸一さんに話をうかがいました。
「訪れてくださるお客様との関係を深め、「啓林堂で買う』から『啓林堂を使う』に変えていきたい。啓林堂書店として、ずっと思っていたことです。」
「啓林堂書店でコミュニティが育まれ、ブックライフサイクルが展開されていく。その第一歩となるプロジェクト提案に感謝したいです!」

「そしてもう一つ、田中さんと朝日さんに伝えたいことがあります。これからの啓林堂書店に必要なのは『このアイデア、どう思います?』と未来を話し合っていける、ほんまの意味での仲間でした。ならわいで2人と出会えてよかったです!」
事業化のポイント
4ヶ月間にわたりチームのメンターとして活動してきた東信史さんに、事業化のポイントを聞きました。
啓林堂書店のプロジェクトには、ローカルで仕事をする上での特徴が2点ありました。
第一に、自ら課題を見つけ、仮説を立てていくこと。
組織で働いていると、課題と解決方法があらかじめ設定された案件に取り組むことが多いと思います。
次に、自分を主語にしてプロジェクトを考えていくこと。
「会社の方針ありきではなく、自分たちはどうしたいのか?」を大事にする。参加者の二人には、その点を何度も伝えていきました。
岡井麻布商店
奈良の伝統的工芸品である「奈良晒」を製造する株式会社岡井麻布商店。こちらで、6代目・岡井大祐さんとともに、「麻のあるライフスタイル」から、モノ・サービスを考えました。
岡井麻布商店の岡井大祐さんが見守る中、発表がはじまります。

奈良出身の村井さんと、県外出身の藤田さん・丸山さんは全員が東京在住。
東京で暮らしつつ、奈良との関わりを生み出そうと試みています。

「岡井麻布商店チームです。よろしくお願いします!わたしたちは参加が決まった時点で、岡井麻布商店の商品を購入して、暮らしにとり入れてきました。10/16のフィールドワークで工房を訪ねると、たくさんの刺激をもらいました。」
「手織りの麻布のもつ『ていねいさ』や『あじわい』、そして地域のつくり手さんたちと連携してものづくりに取り組む岡井さんの人となり。それらを新規事業に活かしたいと思いました。」

提案
「フィールドワークから『麻布がつなぐていねいなくらし』というコンセプトが生まれてきました。そこで、麻布をコミュニケーションツールとして捉え、いろいろなもの・人をつなぎたいと思います。」

「考案したのは、こちらです。」

「『奈良の四季織り折りキット』といいます。春夏秋冬ごとに、季節を感じる奈良のくらしのアイテムを麻布で包んで届けます。」
この日用意したのは、「春」の試作品でした。
麻ふきんの包みを開くと、いちごのハーブティーや和紅茶、そしてお茶を煮出すときに用いる岡井麻布商店のちゃんぶくろが現れました。

「夏には、触覚と味覚から涼しさを感じる『麻ハンカチとミントスプレー、そして柿の葉茶』、冬には『ちゃんぶくろと入浴剤、そしてうるおいを足に閉じ込める麻のくつした』といった商品を届けます。」
岡井麻布商店チームは、麻布を通じたコミュニティ創出にも触れました。
「また、商品を届けて終わりではなく、そこからSNSやワークショップを活用したコミュニティづくりにも取り組んでいきたいと思っています。」

受入先企業の声
さて、受入先企業の反応は? 岡井麻布商店 岡井大祐さんに話をうかがいました。

「余白のある提案を、どうもありがとうございます。」
「最終発表を迎えて『ならわいは、今日からはじまるんだな』と思いました。チームのみなさんと一緒に『奈良の四季織り折りキット』を形にしていきたいです。」
「そして来年、再来年もたまに飲みながら『楽しいね、次何しようか』と話し合える関係を続けていけたらうれしいな。これからもよろしくお願いします。」
事業化のポイント
4ヶ月間にわたりチームのメンターとして活動してきた田島瑞希さんに、事業化のポイントを聞きました。
それぞれに専門性を持つ3人が一つのプロジェクトにどう臨んでいくのか。
アイデアがバラバラになる可能性もある中で「誰に届けたいか」という軸を縦に通していきました。
届けたい人が見えてくることで、アイデアもまとまっていきました。
最終的に、一人ひとりのやりたいことを麻が包みこむ。そんな提案が生まれましたね。
市長から

発表を聞いて、仲川げん・奈良市長からあいさつがありました。
「ならわいを立ち上げようとするみなさんと出会えてよかったです。奈良に暮らしていると、2、3枚の名刺を持つ人と出会うことがあります。ここで、今回自分が引き寄せた波にうまくサーフィンしていただけたら。」
「そうした一人ひとりの波が、地層のように積み重なることで、もっと暮らしやすく、働きたい奈良になると嬉しいです。」
参加者のこれから

ならわいを通じて、参加者一人ひとりは今後をどのように描いているのでしょうか。一人ひとりに話を聞きました。
清澄の里 粟チーム

中島さん
ならわいに参加できてほんとうによかったな。
初めて一人暮らしをしたまちが、奈良市でした。今は地元に住んでいるのですが、やっぱり奈良に住みたい。定期的に奈良に帰ってこさせてもらってます。
色々な人とつながって、やりたいことが見え出してきたタイミングで、ならわいに参加しました。これまでつくってきた人との関係が、今つながってきている感じがします。このご縁をつかっていきたいです。ありがとうございました。
小掠さん
今日が最後だとは信じられないぐらいです。
さまざまなバックグラウンドやキャリアの人とプロジェクトを進めていくプロセスを学べてよかったです。そういう機会ってなかなかありません。今後につながるスキルだな。
そして奈良にはいろんな企業があって、いろんなビジネスの可能性があることも感じました。もともと奈良好きで「観光×マーケティング」でビジネスをできたらと思っていましたが、もっと可能性がありそう。何ができるのかなと楽しみです。
啓林堂書店チーム

田中さん
新卒入社したメーカーに勤めて20年。家族と大阪に住みながら「この先のキャリアをどうしていこうかな、地元に帰りたいな、地元のために仕事をしていけたら」。そう思っていた時に、ならわいと出会いました。
何度もチームでプロジェクトを話し合いながら、自分が限られた世界で生きてきたことを実感しました。まだまだ育児中だし自分のアクセルを踏み切れないな、と思っていたんですが、スモールスタートでいいからやってみようと。2023年3月に奈良市へ移住することになりました。
「地元のために仕事をしていけたら」という思いを同じくする人たちと出会えたことは大きいです。この縁にすがって、つながりをつづけていけたらな。引っ越しが落ち着いたら、啓林堂書店のプロジェクトにも携わっていこうと思います。
朝日さん
ぼくも奈良県出身で、今は千葉県在住です。実は啓林堂書店の林田さんと、大学のサークルが一緒で。「あれ、林田さん……?」ってなりました(笑)。
日ごろは中小企業診断士として、事業者さんの企業支援に取り組んでいます。プログラム以外でも奈良に何度もやってきました。おかげでふだんの企業支援よりも深いところでつながることができました。
このプロジェクトを通して、奈良にもこんなにパワフルな企業があるんだなと知りました。今後はより関わっていきたいな。奈良、アツいです。
岡井麻布商店チーム

村井さん
生まれはドイツ、幼稚園から生駒育ちです。実は啓林堂書店の林田さんやチームの朝日さんは同級生です。今は東京で開業医をしています。
奈良にかえってくると、気取らなくて楽だなと思います。まちも、人も。
今後は、麻の靴下を商品化していきたい。また、奈良市において医療費削減につながるフレイル予防事業も展開できたらと思います。
藤田さん
奈良には、人をオリジナルに戻す力があると思っています。大人になって、初めて奈良を訪れた時に、人、歴史、自然にどハマりしました。好きに関わると愛がダダ漏れますね。
東京にいながら、奈良のことをずっと考えられる3ヶ月間でした。引き続き、奈良を拠点にしていけたらと思います。
丸山さん
東京に住みながら、料理研究家として、5年間ほど日本各地のプロジェクトに参加させてもらっています。
奈良に通いはじめたのは3年前。当時は、こんなプロジェクトに参加できるとは思いませんでした。
麻は、人や地域をつなげるコミュニケーションツールでした。料理にも、同じことがいえます。
麻×料理の商品開発はほんとうに楽しくて、これがなりわいになったらいいなと思いました。
今日が卒業であり、始まりでもある。そんな気持ちで、小さいことからはじめていこうと思います!
むすび

4ヶ月間にわたるならわいは、1/15に最終発表を迎えました。
その会場で、参加者や企業のみなさんから聞こえたのは「これからもよろしくお願いします」という声でした。
2022年度のプログラムが終了を迎えた今日、それぞれのならわいがはじまります。