清澄の里 粟

TOP ならわい2022種から育てる母の味。藁灰こんにゃくを顔の見える人たちに届けるデザイン

種から育てる母の味。藁灰こんにゃくを顔の見える人たちに届けるデザイン

プロジェクト概要

奈良県各地で受け継がれる伝統野菜の調査研究、栽培保存に取り組む三浦雅之さん・陽子さん夫妻が2002年にオープンした農家レストラン「清澄の里 粟」。コース料理の一品として人気の「奈良県の在来品種で造るこんにゃく」のお土産品開発を受けて、その魅力を伝えるパッケージ・リーフレット制作に取り組むプロジェクトです。

参加者のみなさんに期待すること:「真剣にものごとを考えられるいい人と出会いたいです!その上で、デザインや編集・ライティングができる方でしたら、一緒に制作に取り組んでいきましょう」

参加者のみなさんに持ち帰ってほしいこと:「『ご縁』ですね。わたしたちは、プロジェクトに取り組む時に『誰とするか』を大切にしています。ならわいを入り口として、ご縁のある方がわたしたちの想いと奈良に関わってくれたらうれしいです」

「大和伝統野菜」を知っていますか?

山添村片平地区の「片平あかね」や下北山村の「下北春まな」など、県内各地で受け継がれ、地域の農家さんにより種が受け継がれてきた野菜を意味します。

2022年7月現在、「大和伝統野菜」として20種類※1が認定されており、スーパーや道の駅などで目にすることも増えました。

しかし、まだ9種類しか認定されていなかった1992年ごろ※2から、その調査に取り組みはじめた人たちが、奈良市にいます。

2002年に農家レストラン「清澄の里 粟」をオープンした三浦雅之さん・陽子さん夫妻です。

「清澄の里 粟」は、BONCHIの最寄駅・近鉄奈良駅から車を15分ほど走らせた奈良市精華地区(旧五ヶ谷村)にあります。

「こんな会社です」

約1,800坪の敷地で、大和伝統野菜を中心に年間約140種類の野菜・作物を育てる雅之さん・陽子さん。「清澄の里 粟」では約50種類の野菜をコース料理として提供しています。

二人は学校を卒業後、福祉・医療分野へ就職します。さまざまな人と出会い、時に高齢者の方の最期を看取る中で、ある疑問をいだきます。

雅之さん・陽子さん:「日本の福祉制度が、『要介護者』というライフステージを前提としているように感じたんですね。間違いなくこれからの日本に必要な制度です。けれども、いつまでも健やかに暮らせる選択肢を自分で選び取ることはできないのだろうか?と思いました」

ふくらみに膨らんだその疑問。答えを求めて20代前半の二人が新婚旅行で訪ねたのは、障害者福祉の最先端といわれたアメリカのカリフォルニア州バークレーでした。二人は、知人の紹介により、そこからさらに400kmほど北上。8家族のネイティブアメリカンが暮らすシンキオン集落を訪ねます。

集落にティピをかまえ、ともに2ヶ月間を過ごした二人は、あることに気づきました。

雅之さん・陽子さん:「先祖代々受け継がれてきた『トウモロコシの種』が中心にあるコミュニティには、『要介護者』がいなかったんです」

働き盛りの若者と高齢者がともに畑に出て、主食であるトウモロコシの種をまき、育て、収穫する。また、高齢者はコミュニティの知恵袋としての役割も担っていました。

雅之さん・陽子さん:「探し求めていた答えは「種」にあると気づいたんです」

帰国した二人は、日本各地の農家さんを訪ねて歩きます。そして、市場へ出荷する「換金作物」とは別に、家族のために育てられた「伝統野菜」と出会っていきます。

やがて、奈良県内で「大和伝統野菜」の調査に乗り出した二人。農家さんから貴重な種を譲り受けては、見よう見まねで、畑での栽培をはじめました。

調査・研究に留まることなく、「いろいろな人に伝統野菜と触れてほしい」という思いが、2002年の農家レストラン「清澄の里 粟」オープンへとつながりました。

現在、三浦雅之さん・陽子さんは「株式会社粟」「NPO法人清澄の村」「五ヶ谷営農協議会」という3つの組織の連携をもとに、伝統野菜を軸にした地域づくり「Project粟」に取り組んでいます。

「取り組むプロジェクト」

今回、ならわいに参加するみなさんが関わるのは「種芋から育てる藁灰こんにゃく」※3です。

現在は「清澄の里 粟」のコース料理の一品として提供されており、「お土産にほしい」という声も多く聞かれる人気のメニューです。

話を聞けば聞くほどその希少性が伝わってくるこんにゃく。その特徴を、雅之さんに紹介してもらいます。

雅之さん:「まずは、製法についてです。このこんにゃくは、食品添加物を使用していません。水酸化カルシウムではなく、藁灰(わらばい)の灰汁(あく)を用いています」

雅之さん:「日本全国を見渡しても、藁灰の灰汁でつくったこんにゃくはほとんど販売されていません。理由は、製品として安定した品質に仕上げるのがきわめて難しいからです。わたし自身、たくさん失敗を繰り返して、ようやく技術をマスターしました。何度くじけそうになったことか……」

原料はこんにゃく芋、藁灰の灰汁、そして水だけ。シンプルではあるけれど、天然原料ゆえに成分のばらつきが多く、レシピ化がむずかしい。感覚を頼りに仕上げるという。

ここで一つの疑問が湧いてくる。

どうしてこれほど難易度の高いこんにゃくを、二人はつくるのだろう?

ここで答えてくれたのは、陽子さん。

陽子さん:「この種芋は、わたしの母の実家で受け継がれてきた伝統野菜なんです」

陽子さんは、奈良県東吉野村育ち。

面積の約96%が山林という村にあって、陽子さんが小学生のころまで、味噌や醤油は家でつくり、塩漬けにしたサバを郷土寿司「朴葉(ほおば)寿司」にするなど、食卓の自給率が高い家庭であったという。

奈良県下市町から東吉野村へ嫁いだお母さんは、庭の柿の木の下に、「嫁入道具のこんにゃく芋」を植えたという。

陽子さん:「年の瀬を迎えて、おせちの準備がはじまる12月28日ごろ。毎年母は、餅つきとあわせて、おせち用のこんにゃくをつくっていました」

やがて雅之さんと陽子さんは、母から種芋を受け継ぎ、「清澄の里 粟」の柿の木の下に植えた。

「だから、このこんにゃくは、わたしにとってのお母さんの味なんです」

「こんな関わり方を考えています」

ならわい参加者のみなさんは、どのように関わるのだろうか。

雅之さんに販路をうかがうと、通販などによる新規顧客開拓は考えておらず、店頭でのみ販売を行うとのこと。

「ありがたいことに、お土産にほしいという声を以前からいただいています。お店に来てくれるお客さまや、20年間の中でお付き合いのある、顔の見えるみなさんに届けていきたいんです」

地元という産地を限定し種芋から育てるため、こんにゃくの生産量にもかぎりがある。

現在は、三浦夫妻に加え、「五ヶ谷営農協議会」のメンバーである精華地区の農家さん2軒がこんにゃく芋を栽培している。農薬や化学肥料を与えることなく、自然の歩みで3年以上かけて育ったこんにゃく芋が原料となる。

このように、商品化に向けた「販路」「販売数量」「価格」はすでに決まっている。あとは、その魅力をいかに伝えていくかになる。

雅之さん:「ならわいに参加する方で、デザインや商品開発、ブランディングをなりわいとされていて、そんな分野に精通されている方がいらっしゃったら、顔となる『パッケージデザイン』や、こんにゃくの物語を伝える『リーフレット』を一緒に考えていけたら、と思います」

今回のプロジェクトは、雅之さん・陽子さんとともに取り組んでいくことになる。ならわい第1回目である10/16の現地訪問時にはどんなことをするのでしょうか?

「こんにゃく芋の収穫は、例年10月末ごろにはじまります。タイミングが合えば、畑に行ってみる、掘ってみる、食べてみる、という一連の流れをできるだけ共有しましょう。その上で、年明けの商品化までをご一緒できたらと思います」

「参加者へのメッセージ」

最後に、雅之さん・陽子さんに「どんな人と一緒に活動したいですか?」とたずねました。

「デザインや編集・ライティングの技術も大事ですが、一番は『いいお人柄の方』と活動したいですね」

ーいい人、ってどんな人でしょうか?

「責任感があって、関わる方のことを自分事として考えられる。当たり前と言えば当たり前なんですけども(笑)、やるからには、このプロジェクトを通しての一生の関係人口となりますので、一期一会のご縁を願いつつ、お互いに楽しみつつも真剣に取り組んでいきたいですね」

「ならわいの話をいただいた時に、『こんにゃくをきっかけとして、いい人が奈良に関わってくれたら』と思いました。そこはね、もう人ありき。いいご縁があるといいな」

「BONCHIの目線」

プロジェクトにおける関わり方が明確に決まっている「清澄の里 粟」。

「農業、植物、食に関する事業に取り組みたい」「おいしいものが好き」「顔の見える関係で制作をしたい」という方には、この上ない機会だと思います。ぜひチャレンジしてみてほしいです。

(2022/7/11 訪問)

啓林堂書店を見る テーマ一覧へ戻る 岡井麻布商店を見る