ならわい2023

TOP ならわい2023 第1回目 錦光園のフィールドワーク

第1回目 錦光園のフィールドワーク

プロジェクト

奈良の伝統工芸である墨。7代目・長野 睦さんとともに、新たな墨の使い道と伝え方を提案します。

8/20のタイムテーブル

10:00-チームごとのフィールドワーク
15:00-ふりかえりと発表
17:00-解散

この日は、チームごとに企業の現場を訪問するフィールドワークを実施。

その後はBONCHIへ戻り、フィールドワークにより「わかったこと」をもとに、「これからのこと」をまとめていきます。

錦光園の工房へ

三条通から一本路地に入ったところにある錦光園。その入り口では、長野さんが迎えてくれました。

懇親会のおかげもあって、すっかり打ち解けた雰囲気のなか、フィールドワークがはじまります。

「墨」と書かれたのれんをくぐると、なつかしい墨の香りに包まれます。さっそく、興奮を隠せない参加者のみなさん。

墨を知る

まずは、長野さんから墨づくりについての説明を聞かせてもらいます。

「日本の墨づくりは、1400年の歴史があるといわれています。原料は、煤(すす)と膠(にかわ)と香料です。」

煤と膠と香料。耳慣れない言葉が続き、きょとんとする参加者たち。

「これが、煤ですよ。」

「現在の主流である南都油煙(ゆえん)墨は、600年前に奈良・興福寺周辺でつくられるようになりました。そして、1400年前に生まれたのが松煙(しょうえん)です。松を燃やして、その煙を集めたものですね。」

油煙と松煙には、それぞれ特徴があります。

左が油煙。コントラストが高く、書道に適しています。

右の松煙はコントラストが低く、中間色のグラデーションが豊か。そのため、濃淡を表現する水墨画に用いられます。

ちなみに、日本で松煙を製造するのは、和歌山県の紀州松煙さんのみ。絶滅危惧種の技術なんです。

それにしても、煤はきめの細かい黒い粒。……これが、どうやって墨になるのでしょう?

次に手渡されたのは、しかくい透明のかたまり。

「これが膠です。」

「熱を加えると、とろーっとした液体の接着剤になります。煤と混ぜ合わせることで生墨(なまずみ)をつくります。」

膠の原料は、牛や馬などの皮。そのため、独特の匂いがあります。

「そこで、香りづけをします。」

香料となるのは、樟脳(しょうのう)。

「あ、なつかしいにおい……!」「押入れを開けたときのにおいがする。ほっとするなあ。」

クスノキからつくられる樟脳は、衣類を保管する防虫剤や芳香剤に用いられます。

工房を見学する

長野さんから一通り説明をしていただいたところで、いよいよ!工房の見学です。

錦光園の建物は、間口をコンパクトに奥へと細く長い“うなぎの寝床”になっています。

敷地内には住居もあり、その先に工房が続きます。

「これ、なんですか?」

工房の入り口で、銅の筒に目が留まった参加者たち。

「この筒に膠を入れて、湯せんするんです。錦光園では、お酒の代わりに膠を“熱燗(あつかん)”にします。」

「つくること」と「伝えること」の両方を自身の仕事と位置づける長野さん。ユーモアのある説明が、参加者の気持ちを惹きつけるようです。

1400年続く墨の歴史を重んじつつも柔軟な姿勢は、ものづくりにも表れています。

「これはゆず、これは…金木犀、これはひのきですね。」

工房に入り、長野さんが手渡してくれたのは、さまざまな植物の香りを練りこんだ墨。

錦光園では、「書くための墨」という固定概念にとらわれることなく、商品開発を行っています。

ここで、長野さん。

「わたしたちの世代は、子どものころに墨の香りをかいだことがあります。香りが記憶に残っているんですね。ここが一番大事なところで、」

「墨って、わざわざの筆記用具ともいえます。ボールペンと違い、磨(す)る一手間がありますから。でも、デメリットはメリットにもなりえます。」

「磨ることで墨の香りがひらきます。その香りは、書いた紙にも移せます。より五感で楽しめる墨のアプローチを考えているんです。」

あらかじめ下調べをしてならわいに臨んだ参加者たち。知識としては知っていたことも、現場でフィールドワークをするからこそ、自ら感じとり、腑に落ちることがあります。

次から次へと手渡される墨。その香り、色、手ざわりに刺激されて、墨の概念がどんどんアップデートされていく参加者たち。五感が刺激されて、次々とアイデアが湧いてくるようです。

「子どもが生まれたときに、“手形”や“足形”をつくれないかなあ。」

「小学生になったら、書道の時間につかってみたりして。」

日々の仕事のなかでは、会社やお客さんの決めた方針にしたがって進める業務が多いのではないでしょうか。

こうして、対等な関係性でお互いの意見を話し合う機会そのものが、ならわいで得られる経験の一つかもしれません。

墨に触れる

「墨をつくってみましょうか。」

長野さんのはからいで、参加者は墨づくりを体験することに。

ここで、長野さんが持ち出したのは炊飯器。

……もうランチですか?

「いえいえ。なかには、煤と膠を混ぜた生墨(なまずみ)が入っています。」

真っ黒いおもちのような生墨。冷えると固まってしまうから、炊飯器で保温するそうです。

この生墨を木の型に入れて、ぎゅっと押します。

すると、成型された生墨がぺろんと現われました。「へぇーっ。」「わあー。」と歓声があがります。「すごいっ!」つい、記録撮影も忘れて身を乗り出す参加者たち。

「でも、水分量が多いので、こんにゃくみたいでしょう?これを3ヶ月から1年間ほどかけて乾燥していきます。」

乾燥期間の長さに驚く参加者たち。

「急に乾燥させるとひび割れてしまうんです。乾燥が進むにつれ、反りも出てきます。だから、手作業で何度もひっくり返していきます。」

続けて、参加者たちも生墨を練らせてもらい、フィールドワークは終了です。

発表

その後はBONCHIへ戻り、フィールドワークにより「わかったこと」をもとに、「これからのこと」をまとめていきます。

そして、最後に発表を行いました。

わかったこと

・長野さんのテーマは、墨の新たな使い道と伝え方を考えること。伝えることで、墨を守っていきたいんです。

・墨づくりには乾燥という工程があり、3ヶ月から1年という時間がかかります。ビジネスとして見るとすぐにお金にはならないんですね。そのこともあり、商品開発ありきではなく、伝えることに焦点をあてたいと改めて思いました。

・印象的だったことがあって……わたしたちがひらめきで事業提案したときに「あ、それは試したことがあってね……」とすぐに返事をいただくんです。
その様子から「墨の可能性を広げるため、長野さんはほんとうにありとあらゆることを試みてきたんだな」ということがわかりました。

・初日の懇親会のなかで、長野さんから「色々とやりたいことやご相談もいただくのですが、実現できないお話も多くて」「今の体制だと、けっきょく自分が動けるかどうかなんですね」という話がありました。

ならわいの提案が、その一つにならないようにしたい。長野さんの想像を超える提案がしたいです。

これからのこと

伝えることに焦点をあてるため、次回は「情報発信の方法、ターゲット、墨を置く場所」を考えることになりました。

10/22の中間発表までには、ユーザーテストも行ってみたいです。

参加者やメンターからの質問

Q.墨=書道というイメージが強いです。書道の良さを伝える以外の可能性もありますか?

A.錦光園は、書道に使う墨だけでないんです。ひのきやキンモクセイの香る墨。黄色や紫色の彩墨。形がユニークなおはじき墨。和菓子の木型をもちいた飾り墨。墨の概念をアップデートしてくれる幅広い墨をつくっています。

また、日本の伝統工芸品として興味を持つインバウンドの方が非常に多いそうです。伝統工芸品として、発信していきたいですね。
Q.外国の人は何に興味を持つんでしょうね?

A.今日も工房に欧米の方が見えていました。「これは、何に使う道具なんだろう?」用途が想像ができないからこそ、興味を惹かれるようです。
Q.ジャストアイデアなんですが、3Dプリンタで型をつくり、“カリグラフィ墨”ってつくれませんか?文字を美しく見せるためのカリグラフィって、書道に通じるものがあると思うんです。

A.面白いですね!
Q.墨という素材には無限の可能性があるからこそ、ちゃんと方向性をしぼることが大事だと思います。カリグラフィのようなコンサバでいくのか、あくまで伝統工芸のようなオーセンティックで行くのか。

A.なるほど、ありがとうございます。

第2回目は9/3です。

開催レポート一覧に戻る