「ならわい2026」の参加企業の一つが、靴下、腹巻き、健康肌着などの製造・販売メーカーである有限会社巽(たつみ)繊維工業所(以下、巽繊維工業所)。
「ならわい」では、自社ブランドの国内外への魅力発信がテーマになりました。
「巽繊維工業所」ってどういう企業?
巽繊維工業所は、「ならわい」の活動拠点となる奈良市創業支援施設「BONCHI」から車で約40分の、橿原市(かしはらし)にあります。
創業は1928年。初代社長が漁網に使用する綿糸を撚糸する工場を創業し、1957年から靴下の製造を始めました。実は、奈良県は靴下の産地で、生産量・出荷額ともに日本一。国内シェアの約7割を誇っているのです。
巽繊維工業所は、繊維のプロフェッショナルとして高品質なものづくりをしています。かつては大手の下請けをしていて、靴下を有名スポーツ選手が愛用していました。3代目社長であり現会長の巽亮滋(りょうじ)さんがオリジナル商品の開発や製造を始め、現在はOEM生産から脱却し、自社ブランドを展開しています。

自社ブランドの一つが、「GUTS-MAN(ガッツマン)」です。開発のきっかけは、自衛隊員からの一本の電話でした。5年以上をかけて「100キロ訓練という行軍訓練でも破れにくい丈夫な靴下」という要望に応えた、高機能なアイテムが誕生したのです。
つま先が丸い一般的なソックスと五本指ソックス、複数の強度タイプがあります。自衛隊隊員はもちろん、建設現場などのハードワーカー、登山家、スポーツマンなど、特に30代から50代の男性に愛用されていますが、購入者にはパートナーの靴下を買い求める女性も多いそうです。

もう一つが、腹巻きブランド「ならまき」です。女性向けの商品をつくりたいと長年考えていたところに、奈良土産を求める土産物店の声もあり、地域活性化のために生まれました。シルクや綿を使った生地に、奈良にゆかりのある刺繍を施した、超薄手の通年着用できる腹巻きです。
これらの商品は県内の土産物店や雑貨ショップ、近鉄百貨店のほか、ECサイト、ふるさと納税などで販売中です。国内のみならず、フランス・パリのセレクトショップでも販売しています。

4代目を継いだ女性社長が「ならわい」を担当!
「ならわい」を担当するのは、亮滋さんの長女で4代目となった代表取締役社長の巽美奈子さん。
約4年半、大手菓子卸商社で営業職をしていた美奈子さんは、家業の受託生産の注文が海外の工場に流れていると知り、家業に入ることを決意。2015年、巽繊維工業所に企画営業として入社しました。
美奈子さんの入社当時、社員は両親を含めてわずか5名だったそうですが、美奈子さんは「GUTS-MAN」の市場展開に尽力し、特にBtoCを強化。その経営手腕により利益率は大幅にアップしました。2019年には、初のクラウドファンディングに挑戦。735名から熱い支援が集まり、なんと目標額の4271%を達成しました。
その後、2021年に美奈子さんが開発した商品こそが、先述した「ならまき」です。幼少期は工場の敷地内で過ごすことが多かったという美奈子さん独自の感性と、巽繊維工業所の技術力を活かして、デザイナーやイラストレーターなど奈良が大好きなクリエイターたちとともに商品づくりをし、奈良への愛情がたっぷりつまったアイテムが完成しました。
社員数は現在16名で、亮滋さん以外は全員が女性です。30代から60代までと年齢層は幅広く、子育て中の人や10年以上勤務している人も多数。奈良が好きで移住した人や「ならまき」に魅力を感じて入社した人もいます。
美奈子さん自身も2024年に出産し、現在育児と仕事を両立しています。同年、大阪商工会議所の「活躍する女性リーダー表彰」(ブルーローズ賞)を受賞し、さらに代表取締役社長に就任したのです。

「ならわい2026」で取り組むテーマは?
そんな美奈子さんに、「ならわい2026」のテーマについて聞きました。取り組むのは、「GUTS-MAN」と「ならまき」の国内外への魅力発信です。
「ほとんどの方にとって靴下は身近なアイテムだと思いますし、『ならまき』には奈良にゆかりのある刺繍を施しているので、奈良好きな方からアイデアやご意見をうかがえたらと考えて、2ブランドをテーマとさせていただきました」
国内向けでは、ここ数年でインフルエンサーの影響で売れたことがあったものの、少しずつ顧客を増やしている段階です。「まだまだ、全然認知度はないんです!」と謙虚に話す美奈子さん。
「商品やブランドの魅力を広く伝えられていないと実感しているので、機能性について知っていただき、届けていきたいです。『GUTS-MAN』の現在のコアなユーザー層は自衛隊員やハードワーカーなどが中心ですが、若い世代にも商品を届けたいですね。『ならまき』は、体の冷えに悩む若い女性に商品の良さを知っていただけたらと思います」
海外向けでは、国内とは異なる戦略が必要になりそうです。というのも、ヨーロッパでは五本指ソックスや腹巻きを使うカルチャーがあまりないため、ユーザーにとって前提が違うからです。一方で、「体を温める」というニーズは共通していて、ヨーロッパ圏やアメリカ、オーストラリアでも売れた実績があり、素材や品質、ギフト性に価値を感じてもらえる可能性もあります。
「手応えを感じているのですが、海外展開に精通している社員がいるわけではないので、手探り状態です。お知恵をいただけたらと思います」
また、2028年に創業100周年を迎えるため、美奈子さんは「巽繊維工業所のこれまでとこれからを感じられる何かができたら」とも考えているそうです。内容により実現できない場合はありますが、「ならわい」で提案できれば採用されるかもしれません。


テーマの背景には何がある?
「GUTS-MAN」は、認知度が徐々に高まってきているものの、非ユーザー層、つまり若年層や足の悩みを抱える層などにも価値を伝える橋渡しが課題となっています。「ならまき」は、ターゲットを「奈良が好きな人」だけに留めず、体を温めることの良さや価値を若い女性などに伝えていくことが課題です。
PRについては、少人数体制のためSNS運用にはあまり手が回っていない状況で、模索しています。
「どちらのブランドも、新しい層へのアプローチができていないと考えています。固定観念にとらわれず、日本製の高品質なものを求めていらっしゃる方にお届けしたいですね。手に取っていただいていないお客様にどうやって魅力を伝えていくか、一緒に考えていただけたら嬉しいです」

対等にディスカッションをして、いいものをつくり上げたい
最後に、「ならわい2026」への参加を検討している方へのメッセージをいただきました。
「『ならわい』で奈良が好きな方たちに出会えることも楽しみですし、『ならわい』を通じて商品がさらに広がれば…と期待もしています。
海外領域に詳しい方がいらっしゃったら心強いですが、そうではない方がほとんどだと思います。地場産業やものづくりに関心がある方、商品の魅力を言語化・発信することが好きな方、SNSやEC、ブランドづくりに関心がある方、海外展開やインバウンド向けの商品発信に興味がある方なども大歓迎です。
まずは参加者のみなさんに、当社の商品を好きになっていただけたらありがたいです。『一人でも多くの方に届けたい』という強い思いを持つ方とご一緒できたら、とてもうれしいですね。
私自身もまだまだ挑戦の途中です。だからこそ、参加者の方の技術や知恵、ご経験、ご意見をしっかり汲み取りながら、同じ目線でディスカッションをし、いいものをつくり上げていきたいです。ご参加、お待ちしています」

取材・執筆:小久保よしの
撮影:都甲ユウタ
