
どんなプロジェクト?
2023年に創立80周年を迎えた奈良交通株式会社。奈良県の路線バス事業をほぼ一手に引き受けつつ、飲食店経営など幅広い事業をしています。
今回のテーマは貸切バス。
修学旅行やバスツアーに利用される貸切バス。活用することで、ワクワクでは足りない、ワクワクワクワクする体験を妄想します。
1949年に貸切バス事業を開始した奈良交通。もともとは連合軍関係者や外国人観光客が対象だったといわれます。
一般団体向けになったのは1951年のこと。学校の修学旅行にくわえ、オフシーズンは初詣、海水浴やスキーなどの会員制ツアーバス企画を打ち出したそう。
現在は、約100台超の貸切バスを保有しています。

奈良交通の貸切バスをとりまく課題は大きく2つあります。運転手の担い手不足、そしてバスツアーの新規ユーザーを獲得できていないこと。
奈良交通が企画する県内を周遊するバスツアーは、参加者のほとんどが関東在住の50代以上のお客さまだそう。
さらにここ数年は「貸切バスの原体験」ともいえる修学旅行でさえ、バスを利用しないケースが増えています。バスガイドとして働く人も年々減少し、応募がない年もあるそう。
あれ、、、ひょっとして貸切バス文化が遺産化しつつある…⁈
ということで「バスを活用して、ワクワクする体験を考えたい」。
これが、今回のならわいのプロジェクトです。
「体験を考える」というのは、魅力的な場所に行くツアーかもしれないし、まずはバスと触れ合うために何かイベントをする、ということかもしれない。奈良交通が「面白いことをやっている会社」というPRの取組みかもしれない。ひょっとしたら、バスさえ利用しないかもしれない。
これまで奈良交通が出会っていない人たちに「バスって面白い」と知ってもらう。そして、バスに乗ることやバスで旅することが奈良のふつうになれば。
それくらい自由な発想で考えてほしいです。
奈良交通へ

訪ねたのは、JR奈良駅から徒歩3分の奈良交通株式会社の本社ビル。
迎えてくれたのは、経営戦略室 地域連携推進グループの浅井課長。出身は大阪で、大学の授業で奈良に関わったことを機に、2006年新卒入社。

さっそく聞いてみる。浅井さんがならわいに期待することは?
「19年目のぼくには思いつかないようなアイデアを、とにかく自由に考えてもらいたいんです」
ちなみに奈良交通では、現在どのように貸切バスを活用しているのでしょうか?
「学校の遠足や修学旅行、それから社員旅行や自治会旅行などですね。それから、売上としては大きくありませんが、寺社仏閣を巡るバスツアーも実施しています」

「ほんとうは、奈良には寺社仏閣以外にもいろいろな“素材”があります。そこから企画が生まれそうなんですけどね」
ならわいで取組むプロジェクト
ここからは、本社から車で約20分の奈良貸切営業所へ。
到着すると、見渡す限りのバス、バス、バス!

その中に、一台の廃バスが。昔の路線バスで、奈良育ちの30代以上にはなつかしいデザイン。

ここで浅井さんに聞いてみる。
“人を運ぶ”以外のバスの活用提案は可能ですか?
「と、言いますと?」
この廃バスをホテルに生まれ変わらせて泊まってみたい!話題にもなると思うし、奈良交通の広告塔になると思うんです。
「なるほど!もちろん提案いただくのは歓迎です。若手社員との会話の中でも、このバスをクラウドファンディングで再生させようという案も出たぐらいです。バスの用途変更としては、コロナ禍に移動式サウナバス『サバス』が話題になりましたしね」
なるほど。
「ちなみに最終発表では、バスツアーを実施した上で、ワクワクする体験を提案いただくことも考えられるかもしれません」
なんと。
「貸切バスは12月下旬から3月にかけてオフシーズンに入りますので、車両も、運転者も段取りがしやすいんですよ」
「貸切バスといっても、乗車人数もグレードもさまざまですね。たとえばですね…こちらの赤いバスが、貸切バスのなかでも特別仕様の『朱雀』。この朱雀も活用できるかもしれません」

ちなみに今回のプロジェクトに関しては、売上目標を設けていないとのこと。まずは「バスを活用して、ワクワクワクワクする体験」を自由に考えていけたら。
ここからは3つのテーマに分けて話を聞いていく。
奈良交通ってどんなところ?
もっと知ってほしい

奈良交通では着地型旅行ツアーを「奈良定期観光バス」「大和路再発見バスツアー」ブランドで展開している。
自社で企画から行っており、これまでのツアーは寺社仏閣・古墳を巡るもの。なかでも、大和路再発見バスツアーの催行は年10回程度。根強いファンがおり、販売と同時に売切れということも珍しくない。そのため、PR方法もDM送付のみで間に合っていた。
「もっとチャレンジしてみたいんですよ。これまでも新たなツアー企画を試みたことはありました。けれど集客が難しくて。最小催行人数が集まらず、中止となった企画もありました」
今回新たな企画を打ち出すことでリーチしたい年代層も変われば、集客方法についても今までとは違うチャネルを持つことになりそう。
「SNS運用もまだまだこれからです。ゆくゆくは大和路再発見バスツアーのリブランディングや、新レーベルをつくることも考えられるかもしれません」
キーワードは、誰が乗る⁈

2023年に浅井さんは、夏の吉野山を訪ねるバスツアーを企画した。桜の名所として、春先に全国から人が押し寄せる吉野山。
「夏の吉野山は高所ということもあって比較的涼しく気持ちよいので、コースをつくりたいと思ったんです」
企画した当初は社内でも「誰が乗るの?」という声が上がった。しかし、リリースすると予想を大きく上回る反響を呼んだそう。
地域に根ざした交通
最後に、奈良交通がめざしていることを聞いた。
地域連携推進グループは、2022年に立ち上がった新しい部署。
田原本町や宇陀市の道の駅の運営受託、旅の思い出を持ち帰るお土産ブランド「づっとなら」、バスガイドの魅力発信の「奈良交通バスガイド リカちゃん人形」、あるいは廃バスのパーツを活用したプロダクト製作などなど。さまざまな事業に取り組んでいる。
「奈良県の特徴として、面積の60%以上を占める吉野地方に、県全体の人口の10%しか住んでいない点があります。そのため路線バスも採算が合わず、撤退したケースあります。そうなれば、奈良交通と地域のつながりも減っていきます」
「我々の役割はなんでしょう。もちろん人を運ぶことです。でもそれだけじゃありません。バスを活用して『この企画があるから吉野に行ってみよう』という人の流れをつくり、県内全域にもどんどん人を呼べる。そんな地域に根ざした交通会社をめざしたいんです」
Q&A
Q.地域とバスを結ぶため、どんな取組みをしてきましたか?
A.やはり観光客と観光地をつなぐバスですかね。
入社以来、主に奈良にお越しになられた来訪者を県内に点在する名所・旧跡へお運びする路線バスや定期観光バスの計画を立て、運行してきました。また、2024年に入ってからは新企画として「ホトケ女史 安達えみと会いにいく 『奈良人-ならびと』めぐり」をリリースしました。
Q.提案のなかで「やっちゃいけない」ことは?
A.枠を決めないで考えてほしいんです。
まずは色々な企画を考えてもらえたら。実施に向けて進めるなかで障壁にぶち当たったときに一緒に考えていきましょう。
Q.ならわい終了後は、どんな関わり方が考えられますか?
A.ぜひ一度実施をしてみたいですね。
もちろん、どんな内容の提案をしていただけるかに寄りますが、ツアーであれば実現可能性は高いかもしれません。ただ、いろんな可能性を自由な発想で考えていただけたら。
(2024/5/8 インタビュー 撮影・編集 大越はじめ)