どんなプロジェクト?
1909年創業の奈良ホテル。
2026年度には新館のリニューアルも控える中、クラシックホテルとしての体験価値を高めていきたいと考えています。
地層のように116年の時間が積み重なる奈良ホテル。館内の歴史的調度品などの資源を活かし、ここにしかない体験価値をともに生み出していきたいです。
参加者に取り組んでほしいこと
「クラシックホテルらしさ」とはなんでしょうか?この前提を問い直した上で「クラシックホテルの体験価値向上」につなげていただきたいです。なお、アプローチについては「国内の宿泊客」「海外の宿泊客」のどちらからでもOKです。単発で終わることなく、継続的な価値向上に取り組んでいける企画が求められています。みなさんの自由な提案を期待しています。
奈良ホテルってどんなところ?
多くの外国人観光客が訪れる奈良市。その玄関口である近鉄奈良駅には、多くの外国人観光客の姿が見えます。
ここから、歩くこと15分。
東京駅を手がけた建築家・辰野金吾さんの設計による奈良ホテルが現れます。
この日訪ねたのは、ならわいを主催する奈良市役所の三浦さんと事務局を担うTOMOSUの乾さんです。
時間は10時。ホテルの玄関からは、近鉄奈良駅へ向かう送迎バスが出発。フロントではチェックアウトが行われています。
宿泊客の多くは日本人で、その表情からは「奈良ホテルに泊まること」に誇りと価値を感じている様子がうかがえました。日本のホテル黎明期に創業し、西洋のホテルのライフスタイルを具現化する「日本クラシックホテルの会」に加盟するホテルの一つでもあります。
ならわいの参加者たちをメインで受け入れるのは、営業企画課・課長の津川あかねさんです。奈良県出身で、奈良ホテルに新卒入社しました。レストランやフロントでの仕事を経て、営業企画課は8年目。広報も担当しています。
ならわいで取り組む「クラシックホテルの体験価値向上」とはどういうものでしょうか?ここからは津川さんと館内を歩きながら、プロジェクトのヒントを聞いていきます。
可能性:歴史的調度品の活用
宿泊客がフロントでチェックインを終えてから、2階へ向かう大階段。そこには、陶器製の擬宝珠(ぎぼし)がありました。
「もともとは真鍮(しんちゅう)製でしたが、第二次世界大戦中に供出したため、奈良の伝統工芸『赤膚焼(あかはだやき)』で製作されたものです」
また館内を歩くと、美しい彫刻が施されたスチーム暖房が目を引きます。1914年に設置されたもので、稼働を終えた今もなお、訪れる人の目を楽しませています。
館内の至るところに見受けられる歴史的調度品は、どれも人の手でつくられたもの。タイムトリップしたような気持ちになります。創業以来、地層のように積み重なる116年の時間こそが、奈良ホテルの唯一無二の価値かもしれません。
歴史:国際的なホテルとして創業
1階を案内していただくと、奈良ホテルが国際的なホテルとして創業していることを体感しました。
創業当時は、外国人の宿泊客が多かったそうです。そのため、食事をとるメインダイニングルーム「三笠」の床は板張りのデザインでした。
壁には、こちらの絵が飾られています。
「創業当時、外国人の宿泊客にお土産として渡したうちわの原画です。鉄道省の依頼により、日本画家の横山大観と川合玉堂(ぎょくどう)が描いたものなんです」
ロビー「桜の間」に移ると、1922年にアインシュタインが演奏したピアノが置かれています。
「オードリー・ヘプバーンや、ラストエンペラーと呼ばれた愛新覚羅 溥儀(あいしんかくら ふぎ)が宿泊した部屋もあります。お客さまからは『どの部屋に泊まったんですか?』と聞かれることも多いです」
広報担当として取材対応も行う津川さん。いろいろな質問を受けては、かつて在籍していた「奈良ホテルの生き字引」といえる先輩にたずねたそうです。そうして集めた情報は接客用資料として、スタッフ間で共有しています。
施設の情報は、宿泊客向けのパンフレットにまとめています。またコロナ禍には、動画での施設紹介もはじめました。
情報としてはよく整理されているものの、横山大観、アインシュタイン、オードリー・ヘプバーンといった名前を聞くと、一つひとつをより活かせるようにも思いました。
現状:日本人と外国人の宿泊者層
現在、海外からの宿泊客は、全体の17%です。数ある宿泊施設の中から奈良ホテルが選ばれた理由は、何なのでしょうか。
津川さんは、こう話します。
「奈良公園に隣接している立地を理由に、選ぶ方が多いのかもしれません。言い換えると、十分なブランド訴求ができていないように感じています。ただし、海外の方が“日本のクラシックホテル”を魅力に感じるかどうかは、わかりません」
ここで、津川さんから聞いた内容をまとめていきます。
日本人宿泊客
・予約は主に公式サイトから
・首都圏から訪れる60-70代のご夫婦が多い
・もっとも選ばれるプランは一泊二食(朝夕)付。ちなみにホテルのディナーは洋食
海外からの宿泊客
・予約は主にインターネット旅行予約サイト経由
・もっとも選ばれるプランは、一泊朝食付
・夕方にホテルのバーを利用し、ディナーは外食に出る人が多い
課題の一つは、オフシーズン(6-9月、1-2月)の稼働率を高めること。期待を寄せるのがオーストラリアからの宿泊客です。季節が逆転する南半球に位置しており、一人あたりの消費額も高いといいます。
なおクラシックホテルとしてのブランドを大切にするため、海外からの宿泊客の割合を闇雲に増やすことは考えていません。20%がちょうどよいそう。
展望:唯一無二の奈良ホテルブランド
奈良ホテルには、1984年築の新館もあります。こちらは2026年9月にリニューアルオープンする予定で、より満足度の高い滞在体験を提供したいと考えています。うまくタイミングが合えば、ならわいでの提案が活用されるかもしれません。
ちなみに、津川さんは次のホテルをベンチマークとして挙げています。
カクテルのシンガポール・スリングで知られる1887年創業のラッフルズホテル、そして、ザッハトルテ発祥といわれる1876年創業のホテル・ザッハーです。
津川さんが感じているのは、ブランドマネジメントの必要性でした。ブランドマネジメントとは、どういうことでしょう。ここで津川さんが例に挙げたのは、館内に置かれている宿泊記念スタンプです。
「シャチハタのスタンプなんですが、周りを囲む歴史的調度品からはやや浮いているようにも感じます」
また、企画のブランドマネジメントも見直していきたいと考えています。
現在行われているのはビアガーデンやアフタヌーンティーといった企画です。宴会食堂部や宿泊部など奈良ホテル内の各部署が考案しています。
奈良ホテルの空間自体が魅力的だからこそ、どんな企画を行っても魅力的になります。しかし、奈良ホテルにしかできない唯一無二の企画とは?単発のイベントで終わることなく、継続的な価値向上に取り組んでいける企画が求められています。
編集後記
「奈良に住んでいるけれど、泊まってみたいなあ」
奈良ホテルを後にして、TOMOSUの乾さんがつぶやきました。市役所の三浦さんもうんうん、とうなずきます。
その気持ち、わかります。奈良ホテルは外から訪れる人だけでなく、奈良で暮らす人にとっても、ここにいることが、うれしく感じられる空間でした。
さて、1909年創業の奈良ホテルとともに「クラシックホテルの体験価値」を考えてみませんか?
(2025/5/1 編集・執筆・撮影 toi編集舎 大越はじめ)
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