
どんなプロジェクト?
B.LEAGUE 2部で活躍するプロバスケットボールチーム「バンビシャス奈良」。 「ロートアリーナ奈良を全試合観客でいっぱいにしたい」 これがプロジェクトです。 定員2700人のロートアリーナ奈良を全試合満席にするには、どのような集客方法・体験設計が考えられる? 創業社長の加藤真治さんに提案します。
1990年に週刊少年ジャンプで掲載開始された「スラムダンク」。
日本にプロバスケットボールリーグが誕生したのは、2005年のことでした。
2013年、奈良のプロバスケットボールチーム「バンビシャス奈良」が誕生。現在は、B.LEAGUE 2部で活躍しています。
創業者は奈良出身の加藤 真治さん。かつての高校のバスケ部員でした。
京都大学工学部へ進学後、三井住友銀行へ。「着実に、堅実に、安定第一で。手がたく生きる予定だった」という加藤さんは、39歳で株式会社バンビシャス奈良を創業しました。

そして13年目となる今年、ある挑戦に臨んでいます。
「ホームであるロートアリーナ奈良を、全試合観客でいっぱいにしたい」
これが、今回のならわいのプロジェクトです。
バンビシャス奈良へ

「きのうまでコートを縦横無尽に駆け回っていた選手たちはお休み。今日からは、わたしが奈良じゅうを走る番。協賛をいただいた企業さんに感謝を伝え、来季に向けた準備を進めていきます」と加藤さん。

新型コロナウイルスの影響も残りつつ、2期連続赤字で迎えた今季は、バンビシャス奈良の経営を大きく見つめ直す一年に。
B.LEAGUE 2部残留に必要な売上は、4.2億円。チーム一丸となって取り組むことで、前年比10%増となったものの、4000万円が足りない。
そこで県内企業を訪ね歩き、3000万円超の追加協賛をいただくことに。さらに全額寄付型のクラウドファンディングを行うことで、610人から合計877.5万円もの支援が集まった。
「今季を黒字で迎えられたおかげで、次の目標に向けて動き出すことができます。2025年にはB.LEAGUEの再編が行われます。2025年の秋にはじまるシーズンを『全試合観客満席』にしていきたい。毎試合アリーナを2700人の観客で埋めたいんです」
ならわいで取組むプロジェクト

プロバスケットボールチームを経営する上で、キーとなるのが観客動員。
2013年のリーグ参戦初年度、バンビシャス奈良の平均観客数は1100人。そのうち、800人が無料招待だった。
「きっかけづくりのための無料招待でした。奈良県民の99%がプロバスケの試合を生で観たことがありませんでした。まずはアリーナに足を運んでほしい。ファンになってもらい、繰り返し足を運んでほしい」
無料招待は継続しつつ、着実にファンは増加。11年目の今季は、平均観客数が1700人に。
2023年10月7日の開幕戦は、2700人がロートアリーナを埋めた。
「満席です!当日券をもとめて会場を直接訪れてくださったお客さんに、お帰りいただいたほど。以前は考えられなかった光景でした」
この光景を、開幕戦だけでなく、毎試合アリーナを2700人の観客で埋めたい。
では、どうしたらよいのだろう?
ここからは「認知度」「価値向上」「市民感情」という3つのテーマに分けて話を聞いていく。
バンビシャス奈良ってどんなところ?
認知度:スポーツの100%は89%

「スポーツの100%は89%なんです」という加藤さん。
どういうことだろう。
「日本で一番知られているプロスポーツチームの一つに、読売ジャイアンツがあります。その認知度が89%という調査結果があって。つまり、日本のプロスポーツにおける『みんな知っている』は89%といえます」
「だけど、バンビシャス奈良の県内認知度は、ようやく30%というところ。これを50%、つまり2人に1人にしたいんです」
バンビシャス奈良の認知度が50%を超えた世界って、どんなだろう。
「教室で、職場で、カフェで、お酒の席で。3人組が話していたら、そのうち1人はバンビシャス奈良のことを知っていて、もう1人は知らない。そこではね、こんなやりとりが聞こえてる…」
「『バンビきのう勝ったらしいよ』『へえ、一度観に行こうかな』。残りの知らない1人もやりとりを聞いて興味を持ちはじめるんです」
価値向上:売り切れると、何が起こる?

プロバスケットボールチームを経営する上で、キーとなるのが観客動員。
2025年のリーグ再編に向けた目標がある。
「チケットを売り切りたい。売り切れると何が起こる?価値が変わりはじめるんですね。『ギリギリでもチケットが買える、当日でもふらっと入れるバンビシャス奈良』から『早く買おう、1ヶ月前から試合が心待ちなバンビシャス奈良』へ。きてくださる人にとっての価値を高めたい」
日本のバスケの火付け役として忘れられないのが、1990年に週刊少年ジャンプで連載開始した「スラムダンク」。加藤さんの大学時代にバスケ人口が急増したきっかけがそうだった。2022年12月に封切られた映画『THE FIRST SLAM DUNK』で、バスケの存在感は、じわじわリアルへとまた広がりつつある。
2019年には富樫勇樹選手が、B.LEAGUEにおける日本出身選手として初の年俸1億円プレーヤーに。また人口150万人の沖縄で、入場料収入がリーグ史上初の10億円を突破。県をあげてのバスケブームが来ている。
ここで、苦笑いする加藤さん。
「『株式会社バンビシャス奈良 代表取締役』の名刺を人にお渡しすると『ふだんは何のお仕事をされているんですか?』と聞かれることがあります。また、『選手のみなさんは日頃何の仕事をされてるんですか?』と聞かれることもあります。どうやらプロバスケットボールチームの経営が趣味だと思われてしまうようで。裏をかえすと、プロバスケットボールチームの価値が地域で認められていないんです。バンビシャス奈良は、クラブの売上が4億円を超え、報酬が1000万円を超える選手もいることを説明すると、驚かれる方がまだまだいらっしゃいます」
「バンビシャス奈良の試合はお金を払って観に行く価値のあるものなんだ、ともっと多くの人に知ってほしい。そして、プロバスケチームの経営は夢のある仕事なんだと伝えていきたいです」
市民感情:プロスポーツが与える影響はすごい

大阪の阪神タイガース、埼玉の浦和レッズ、沖縄の琉球ゴールデンキングスを挙げる加藤さん。
「スポーツは、地域のアイデンティティを育てます。バンビシャス奈良の価値が高まると、奈良に暮らす価値が高まるんです」
体感したのは、34歳のときだった。加藤さんは銀行を退職し、仙台のプロバスケットボールチーム「仙台89ERS」の経営に参画した年。
「『仙台といえばなんですか?』という質問への市民の回答が変わったんですね。かつては『牛タン、笹かま、伊達政宗』という声が多かった。今は『プロスポーツのまち!』と答える人が現れています」
というのも、仙台市は東京と大阪を除く地方の政令指定都市としてバスケ、サッカー、野球と3つのプロスポーツチームが全国で最初に揃ったまち。
「そのことが、仙台市民に刺さりまくったんですね」

2013年に誕生したバンビシャス奈良がめざすのは「鹿と、大仏と、バンビシャス奈良」。
プロスポーツがリーチできるのは、コアなファンやかつての経験者だけじゃない。
高校時代に運動部だった人はもちろん、文化部で過ごした人も、帰宅部だった人も、それから高校に通わなかった人も。
プロスポーツには、人の気持ちの奥深いところに働きかける不思議な力があると加藤さん。
「バスケットボールをよく知らない人でも、『奈良』対『他県の名前のついたチーム』の試合を観て、コートで試合に負けそうなバンビシャス奈良を目の当たりにすると『もうすこしがんばれよ』って応援したくなる。奈良の県民性って、控えめだと思うんですけどね。奥底にある気持ちを、目の前の選手たちが呼び起こしてくれるんです」

加藤さんをインタビューする前日。生まれてはじめてバンビシャス奈良の試合を観に行った。
アリーナに入ると、歓声が聞こえた。遠目に見ても大きな選手たちが、コート上を踊るみたいに駆け回る。その姿を見ていると、なぜか気持ちが熱くなってくる。
声を出すのはまだ気恥ずかしかったけど、フリースローの瞬間は「入れ、入れ」と祈る。こぼれたボールのリバウンドを取ると、心のなかでガッツポーズ。
最後に加藤さんの言葉を。
「『奈良がんばれー!』は『奈良が好きだー!』の裏がえしだと思うんです。『奈良が好きだー!』は恥ずかしくて言えないけど、『奈良がんばれー!』だったら言いやすいから」
知らず知らずのうちに郷土愛が育まれていく。アリーナは、そんな場所になっていました。
Q&A
Q.試合日程は?
A.2023-2024シーズンは、2023/10/7-2024/4/21で行われました。
Q.売上構成を知りたいです
A.チケット販売は20%弱ですが、増やしていきたいんです。

Q.認知度アップに向けてどんな取組みをしていますか?
A.未来のスポーツプレイヤーやファン育成も意識して、子ども向けの活動を中心に取り組んでいます。
1.市民招待・小学生招待奈良県内の小学校で7万部を配布!ご家族と一緒にアリーナへ来てもらう機会をつくります
2.学校訪問奈良県内の小中高校の体育の授業でプロ選手とバスケットボール。身近に感じる機会をつくります
3.奈良市ふるさと納税寄付金の50%がバンビシャス奈良の支援に活用されます
Q.ならわい終了後は、どんな関わり方が考えられますか?
A.ならわいでの企画提案をもとに、一緒に仕事をしていくことが考えられます。
その場合は、バンビシャス奈良の社員となって、いっしょに仕事をしていく可能性もありますね。また業界全体を見渡すと、B.LEAGUEに携わってきた人たちが、プロスポーツ支援の会社を立ち上げるケースも出ています。そうした関わり方も考えられそうです。
Q.提案のなかで「やっちゃいけない」ことは?
A.創業12年目のバンビシャス奈良は、まだまだベンチャー。「やらないことがリスク」なんです。
「マスコットキャラのシカッチェを活用しよう」「上手な選手を前面に出さなくていいかも?」「社員のみなさんの笑顔の練習が必要です」「選手の協力が必要です」「ブランドと連携しては?」など自由な提案を期待しています。
Q.バスケ好きじゃないと、参加できませんか?
A.バスケ好きである必要はありません。
むしろ、バンビシャス奈良の裾野を広げる上では、「プロバスケってほんとうに面白いの…?」というくらいの冷めた視点からスタートしていただけたら。大事なのは、お客さん目線。コートのなかの選手よりもお客さんを見て企画提案をしてほしいです。
(2024/4/22 インタビュー 撮影・編集 大越はじめ)