
どんなプロジェクト?
チョコがけラムネ「ショコネ」を中心に、奈良のお土産やギフトになるようなお菓子を企画~販売する株式会社リリオンテ。 奈良市出身の栢森勇佑さんが2018年に起業しました。 2025年春、奈良の野菜や果物を真空フライ加工する「国産青果クラフトチップス」製造工場立ち上げにあたって、新商品となるお菓子の商品企画をともに考えていきます。
一口かじると、畑の上にいるみたい。
噛めば噛むほど、野菜や果物のおいしさが溢れでてくる。とれたてのものを丸かじりしてるみたい。すごいな、作物の香りまでも感じられる。
リリオンテの新商品「国産青果クラフトチップス」をいただきながら、感じたことです。

「お菓子としての“おいしさ”は、食材のおいしさにある。食材そのものの味わい、色味、香りをそのまま届けていけるお菓子をつくりたい。奈良で6年考えつづけたんです」
そう話すのは、2018年にリリオンテを起業した栢森 勇佑(かやもり ゆうすけ)さん。

新商品の「国産青果クラフトチップス」は製造工場を2025年春から稼働予定。
「どんな食材を選ぶ?」「工場設計は?」「価格は?」「商品デザインは?」「販路は?直販だけにする?」「生産者さんのストーリーをどう伝えていく?」「それから、それから…」と商品企画に関することを楽しみながら、脳に汗かいているところ。
「国産青果クラフトチップスの商品企画を描く」
これが、今回のならわいのプロジェクトです。
リリオンテへ
4人の社員とパートさんが集うリリオンテの事務所は、奈良市の学園前にある。
ドアを開けると、現在の看板商品である「choco-ne(ショコネ)」が迎えてくれた。

つきぬけるようなラムネの香りが、すっと気持ちを包んでくれる。
「ちょうどきのう、入荷があったんですよ。事務所の奥は倉庫になっていて」と栢森さん。
応接に通されると、新商品の「国産青果クラフトチップス」のサンプルが置かれている。袋から取り出して、さっそく器に広げてくれた。
おいしそう…と思わず喉が鳴る。

「これは撮影用に。あとで、試食もご用意しますね。ぜひ召し上がってください」
まずはリリオンテを起業するまでの話を聞かせてもらうことに。就職を経て起業した栢森さんの話は、これからならわいに参加する人とも重なりそう。
大学時代は理系。大学院まで進学し、技術畑で働く自分も想像しつつ、就職活動へ。業種・職種を絞らず未来を考えるなか、起業家輩出企業として知られるリクルートに惹かれた。
「学生時代から、「起業」というキーワードに憧れをもっていました。でも、できることも、やりたいことも当時は全く分からなかった。そんな自分もここに身を置いたら、いつか起業できるかも?」
2014年に入社すると、広告営業の仕事に就いた。だけど最初は全く売れなかった。
突破口は、当時住んでいた門前仲町の富岡八幡宮で目にした言葉だった。
「高杉晋作の『面白きこともなき世をおもしろく』という言葉が書かれていたんです。タフな経験もポジティブに捉えていきたい。どうしたら売れるんやろと考え、とにかく決めて実行し続けました。すると仕事がどんどん楽しくなっていって」
やがて個人としても組織としても大きな成功体験を得た、入社3年目。
栢森さんはふつふつと思いをたぎらせていく。
「自分で手塩にかけたものを売ることができたら、もっとワクワクするやろな」

それは一体なんだろう?
奈良に帰省中、実家で飲んでいたときのこと。定年間近となった父が突然つぶやいた。
「お菓子の仕事をしてみたかってん」
その一言から、頭の中に色んなわくわくするイメージやアイデアが湧いてきた。
「チョコ好きやし、チョコでなんかでけへんか」
…チョコか。
まったく経験もノウハウもない食品分野で事業をするとして。すでにある土俵に割って入ったところで勝負は見えている。今までにあまりなかったようなものをつくれないか。
栢森さんはラムネが好きだった。
「ラムネに、チョコをかけてみたら…?」
電子レンジでチョコレートを溶かし、ラムネにチョコをかけてみると。
「これが…おもしろかったんです」

考えるより決める。商材を決めた。では、どこで売るか?
浮かんできたのが、地元奈良だった。多くの観光客が訪れるものの、日帰り旅行が多い。どうしたら、もっと奈良の価値を提供できるのだろう。
お土産店をのぞいた栢森さんは、大箱かつ低単価のお菓子が店の大部分を占めていることに気づいた。小売業目線で考えると、小さめで、少し単価の高いお菓子も喜ばれるのでは?
観光客目線に立っても、奈良の味わいと香りを手軽に持ち帰れたらよさそう。抹茶やほうじ茶、いちごなどの地域食材をつかうことで、地域経済にも貢献できるのでは?

どれくらいのサイズがいいかな?お菓子がいくつ入るといいだろう?奈良らしいデザインをあしらって、ハサミとのりと紙で、プロトタイプを組み立てていく。
そうして栢森さんは2018年に起業を決意。中身もパッケージも試作に試作を重ね、チョコがけラムネ「choco-ne(ショコネ)」が誕生した。

直営店はもたずに、お土産店への卸しや百貨店の催事、自社のオンラインショップなどで展開をしていくと、30-50代の女性を中心に手に取られるようになった。
お土産だけでなく、バレンタインなどのシーズンギフト需要、海外からの観光客が多く宿泊される県外のリゾートホテルのノベルティなどにも選ばれつつある。
やがて仲間も増え、いろいろな販売経路を培った今。お菓子というキーワードに出会った当時から叶えたかった夢に向けて新たな一歩を踏み出すことに。
「エンタメを感じる、お菓子工場を奈良につくりたいんです」
「イメージしやすいところでいうと『チャーリーとチョコレート工場』でしょうか。工場を見て楽しんで、つくってみたり、お菓子を味わったり。そして、働く人もわくわくするような。そんな事業をつくっていきたいんです」
ならわいで取り組むプロジェクト
そこで今回、取り組む新規事業が「国産青果クラフトチップス」。

「きっかけは、奈良でつくられるほんとうにおいしい食材との出会いでした。畑から収穫したての野菜や果実はみずみずしくて、カラーチャートでは表せないような美しい色をしているんです。その味わいも色味も、すなおにそのままお菓子にできないか。」
お菓子の”おいしい”は、素材のおいしさ。
シンプルな加工法を探しもとめた栢森さんは、“真空フライ”という技術に出会う。
真空フライは、フライ加工を行う缶内を真空減圧することで沸点を下げ、低温で原料をフライする製法。
一般的なフライには150℃程度の油温が必要になるけれど、真空フライは80℃程度で行う。だから食材の色味や栄養素が変質しにくく、油の量も大きく削減できる。体に優しくて、食材そのもののおいしさをとことん楽しめる。
真空フライの工場は、奈良県宇陀(うだ)市大宇陀に建設予定。
リリオンテは民家の一角を工場として改修。ゆくゆくは店舗もはじめたいと考えている。

「国産青果クラフトチップス」事業は、2025年春の工場オープンに向けて、社員総出で動いているところ。2024年の秋からテストマーケティングを行う予定。
「『どんな食材を選ぶ?』『工場設計は?』『価格は?』『商品デザインは?』『販路は?』『生産者さんのストーリーをどう伝えていく?』ぼくらも色々な可能性を視野に入れつつ、商品企画を考えている真っ最中です」
ならわいについても、幅広い提案が考えられそう。
現在は3種類の奈良の食材の商品化を予定していて、商品ラインナップを増やしていく余白もあるとのこと。
そこで新たな食材を提案してみる。あるいは実施予定3種の商品の提供価値・販路を考えたり、商品デザインを組み立てたり。
栢森さんから、参加者へ伝えておきたいことはありますか?
「まずは、こんなことできたらめっちゃいいなとか、わくわくするアイデアを爆発させてほしいなと思っています。参加するみなさんが、できるだけ心から面白いなと思えるようなものを。できるできないや、経済合理性は後からすり合わせていきましょう」
リリオンテってどんなところ?
live life on the edge.
栢森さんの姿勢は一貫している。
「考えるよりやっちゃいたい」
ビジネスサイクルを表すPDCA(Plan,Do,Check,Action)という言葉がある。栢森さんを見ていると、Dを何度も何度も連打しつづけている印象。やって、やって、やって、やって、形にするまでやって。だからちゃんとビジネスとして成り立っているし、雇用も生んでいる。
ちなみにリリオンテという社名は、live life on the edge.の略で「ワクワクする人生を送っていこう」という思いが込められている。

今回の新規事業も、「live life on the edge.」の実践の一つといえる。
果実・野菜ひとつひとつが自分自身
栢森さんは、宇陀を含む奥大和エリアの生産者さんと出会って気づいたことがある。
「おいしいには、理由がある。そのことを強く感じたんです」
たとえば、奈良県が全国2位の収穫量をほこる柿。
五條市の梨子本(なしもと)果樹園さんが育てた富有柿を口にして、衝撃を受けた。
「柿ってこんなに甘くておいしいの…⁈」
おいしさの理由は、大きさも糖度も極限まで高まったタイミングで収穫する「樹上完熟(じゅじょうかんじゅく)」。

「柿を最高の状態で食べていただくための樹上完熟。木に成っている時間を多く費やす分、収穫後はすぐにお客さまに届けなければならない。だから中間業者をはさまず直売にこだわっていらっしゃる。肥料も作物に適したものをご自身で考えて独自のものを」
なるほど。土壌づくり、育て方、流通方法などの拘りが、大きさや味の違いを生むのですね。
「梨子本さんは『果物ひとつひとつが自分の投影。』とお話しされていて、こだわりを徹底されています。でも、自然のなかで育つものだからこそ、ちいさな傷がついたりして商品価値が下がってしまうことも。おいしさは変わらない柿をクラフトチップスにさせてもらい、もう一度輝かせることができたら」
「おいしいは、生産者さんの工夫と努力から生まれています。そういった側面も、このクラフトチップスを通じて伝えていきたいなと」
柿だけではない。紫菊芋やじゃが芋をつくってくださってる福角兄弟農園さんもいる。

奈良県北中部に位置する大和高原の豊かな土壌・水・冷涼な気候を活かし、薬発祥の地で知られる宇陀でつくられた紫菊芋もチップスに。菊芋は「天然のインシュリン」と名の付くスーパーフード。豊かな自然と生産者のこだわりから育まれた、おいしさと栄養をお届けしていきたい。
国産青果クラフトチップスは、そんな力強さを秘めた奈良の食材に光をあて、真空フライによっておいしさをぐぐぐぐっと引き出すプロジェクトになる。そんな、いい予感に包まれています。
Q&A
Q.真空フライの製法上、加工できない食材はありますか?
A.どんな青果も加工できます。
ただし「水分含有率が高く、やわらかいもの」はあまり適さないようです。例えば、みかんを真空フライにすると、果肉がほとんど残らないんです。それから、極端に匂いが強いものはできれば避けたいです。
Q.真空フライの試作はできますか?
A.できる可能性はあります。
自社工場は2025年のオープン予定なので間に合いませんが、外部の工場で試作品をつくってもらうことができると思います。素材からの提案を行う場合、最終発表で試作品を配れたらいいですね。
Q.今困っていることがあったら教えてください。
A.一番は、下処理工程かもしれませんね。
素材を洗って、切って、蒸して、冷凍して、フライして、乾かして、包んで。加工にとても手間がかかるんです。その中でも特に冷凍までの下処理プロセスが重要で、人員配置、販売単価、販売戦略も変わりうる。実は一番大切な視点かもしれません。
Q.ならわい終了後は、どんな関わり方が考えられますか?
A.ほんとうに実現したいな、と思っていて。
商品化するまでやろうぜ、という気持ちでいます。最終発表の段階では課題が残ったとしても、2025年の春に向けて取り組んでいけたら。関わり方としては「リリオンテの社員となること」や「起業して、事業パートナーとしてともに活動していく」などの可能性があると思います。
(2024/5/22 インタビュー 撮影・編集 大越はじめ)