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ならわい2025 第1回前編・人と出会い「新しい奈良」を知る

奈良市役所が2012年から取り組んでいる創業支援事業。
その新たな取り組みとして2022年から開催しているのが、県外在住の参加者と奈良市の企業がともに新規事業(なりわい)をつくるプロジェクト「ならわい」です。
これまで参加した27人のうち、なんと7人が後に奈良へ移住しています。

4回目の開催となる「ならわい2025」の第1回が、2025年9月14日〜15日に行われました。
参加者は、奈良まで足を運び、企業をはじめ、地域のさまざまなものと出会います。何を見聞きして、どのような交流をし、何を感じ、考えたのでしょうか。
「ならわい」のプログラム内容はもちろん、雰囲気も味わっていただきたく、参加者のリアルな感想を交えながら、お届けします。

せっかく奈良に来たなら“未知”のことをやってほしい

1日目。県外からはるばる、奈良市創業支援施設「BONCHI」に集まった参加者9人。少し緊張した様子で、「こんにちは」「はじめまして」と挨拶を交わします。

はじめに、主催の奈良市役所より挨拶をし、そして運営事務局を担う一般社団法人TOMOSUの乾和歌より「ならわい」の概要を説明しました。乾は奈良で生まれ育ち、東京での社会人経験を経て、2025年春に奈良へ戻ったUターン者です。

「事業の企画提案に挑む、4ヶ月間のプログラムです。役割分担やフィールドワーク、ツールなど進め方は自由です。運営体制は、参加者3人で1チームを組み、それぞれのチームにメンターがつきます。企画出しに行き詰まったり、進め方がうまくいかなかったりしたときには、メンターに相談ができます。
『ならわい』の特徴の一つは、全5回で、奈良で活動している方を中心にゲストを毎回呼んでいること。活動のヒントにしていただけたらという想いで設定しています」

参加者全員の自己紹介のあと、今回のゲストである、有限会社ならがよい代表取締役で一般社団法人JOIAC代表理事の平田幸一さんの講演が始まりました。

「せっかく奈良に来てくださったなら“未知”のことをやってほしいなと思うんです。人は、今までやってきた“既知”に委ねがちで、過去の思い出や経験のなかで仕事をするものです。だから最初に思いつくアイデアには過去にやったことが多いんです。それはそれで大事なんですが、他にないかなと考えると『発想』が始まります。『ちょっと知らんことをやっていこう』とすると、知恵や工夫が入っていきます」

平田幸一さん

こうしたお話に、参加者はメモをとったり感心したりしています。平田さんのお話については、2024年のレポートもご参照ください。

自分やチームメンバーのパーソナリティタイプを知る

このあと全員で、平田さんが資格を持っている「ハーマンモデル」のセルフチェックを行いました。「ハーマンモデル」とは、大脳生理学の研究成果をもとにネッド・ハーマン氏が開発した手法で、思考スタイルや癖、好みを知ることができます。人との接し方や組織の編成、活性化などに活用できるのです。

シートに記入していくと自分のパーソナリティタイプが分かり、盛り上がる一同。「わぁ、私ってこれなんだ」「前にも受けたことがあって、今はタイプが変わったかなと思っていたら、やっぱり変わっていなかった」などと笑い合います。そのシートを持って、チーム内で挨拶や交流をしました。和やかな雰囲気のなか、自己開示や相手の理解がスムーズに進んでいきます。

ここで、奈良信用金庫、奈良ホテル、6FARM(ロクファーム)という3企業が登場し、経歴や事業概要などを話しました。なかには、企業として感じている課題を吐露してくださるところも。参加者は真剣なまなざしで聞いていました。

これまでの話をふまえて、チームごとに話し合うことになりました。初めて膝を突き合わせて話す時間です。各チームにメンター、奈良市役所の職員がつきサポートします。今感じていることや、翌日のフィールドワークでどこを視察するかなどを話し合いました。

企業に対して、熱心に質問をする参加者たち。奈良信用金庫チームは、おもに信用金庫という組織を学ぶ時間に。奈良ホテルチームは、おもに奈良ホテルの魅力を改めて探る時間に。6FARMチームは、おもに代表の渡辺邦彦さんの人柄を知る時間になっていました。

夜は懇親会が行われ、その後、近くのバーに飲みに行った人たちもいたようです。緊張がほどけたことでしょう。みなさん、お疲れ様でした!

「まちを盛り上げるところに大きく貢献されている」と実感

2日目は、各チームが朝からフィールドワークを行いました。

奈良信用金庫(ならしん)チームは、まずJR奈良駅前にある奈良支店へ。休日のため支店内には入れませんでしたが、奈良支店が入っているビルの6階にあるコミュニティスペース「ならしんアットマーク」へ行きました。平日9〜15時に開放されていて、予約すれば貸切で利用することもできるそうです。とても広くきれいなスペースで、参加者は「今どう活用されていて、これからどんなことに使えそうか」を話していました。

その後、本店営業部のある大和郡山市へ移動。近鉄郡山駅のすぐ近くです。近隣の商店街をまわり、まちの雰囲気を感じました。

参加者の一人である渡辺由美子さんは、「自分自身のことを考えるきっかけにしたい。自分自身を試してみたい」と「ならわい」に参加しました。会社員を長く続けてきて「自分に何がどこまでできるんだろう」と思ったからだといいます。

写真左:渡辺由美子さん

「まち歩きをしながら、ならしんさんから『こういう取引先がある』と教えていただきました。その一つである、豊臣秀吉の時代に始まったという歴史ある和菓子屋『本家菊屋 本店』にも立ち寄って、休憩しながら話し『こういうお店が存続していて、ならしんさんはまちを盛り上げるところに大きく貢献されているんだ』と感じました」

一方で、全国各地で起きていることとして、休日なのにシャッターが閉まっている、つまり閉店した店舗の存在感も感じたそうです。「どこの地方に行っても似たような景色になってしまうのは、もったいないと感じるので、地域から日本が元気になっていけたら」と渡辺さんは考えています。

東京在住の渡辺さんは、大阪に住んだことがあり、仕事を通じて奈良に接点もあったので、観光地としてだけではなく、生活に近いところで奈良を知っていたそうです。「それでも、企業の方やメンターさんなど、奈良を深く知る方たちと話すことで知れることがたくさんあり新鮮でした。おもしろい方がたくさんいて、話せて楽しかったです」。

自分の視点をどこにおくかで価値観が変わると知る

奈良ホテルチームは、広報担当の津川あかねさんの案内で、館内をまわりました。

ロビーや階段、廊下などの美術品、アルベルト・アインシュタイン氏が滞在した際に弾いたという桜の間にあるピアノ、本館や新館の客室、レストラン、テラスなど。歴史やセンスを感じるものばかりで、ため息をもらす参加者もいました。

実は奈良ホテルチームの参加者は、奈良ホテルが大好きで強い憧れを持って参加したメンバーと、興味があって希望したものの、熱心なファンに比べると冷静な視点も持っているメンバーとに分かれています。菱田朋佳さんは後者のメンバー。仕事で奈良を訪れるようになったことがきっかけで、奈良に興味を持ちました。

「他の参加者のお二人がデザインや建築にまつわるお仕事をされている方で、私は芸術や歴史に知見があるわけではないので、反応の仕方が違うときもありました。例えば、私は機能面では新しい設備のほうがいいと思うタイプですが、お二人は古いものにロマンや時間旅行を感じられていて、私はふだんの思考が偏っているんだなと。私は『おぉ、そうなの?』と驚いたり、感心したりしつつ進んでいった感じでした」と笑います。

菱田朋佳さん

印象的だったのは、歴史のなかにも時代によって違いがあると改めて認識できたことだそう。

「奈良の寺社仏閣などの観光地も奈良ホテルも、まとめて『歴史あるもの』と思っていた節がありましたが、1300年前の奈良時代と明治時代では、それぞれに別の価値があるんだなって。また、参加者のお二人から、平安時代の和歌集では奈良への憧れを詠んでいる歌があると教えてもらったんです。自分の視点をどこにおくかで価値観が変わってくるのだと、新しい視座を得られたことは発見でした。それがこの『ならわい』でもできたらいいなと思っています。見方をどう変えると新しい魅力が広がるのか、そのきっかけをつくれたらと考えています」

人柄を知り、山登りでチーム内の結束も強まる

3チームのなかで最もハードなフィールドワークになったのは、6FARMチーム。まず、いちごを育てているファームのビニルハウスに向かいました。でも現在はいちごの旬ではなく、苗を育てている時期で、いちごを味わうことはできません。そこで、苗を育てるのに使っている水の、近隣にある水源の山を歩くことになりました。

「小さな山なのかなと思っていたらけっこうな山で、猛暑のなか、みんな汗だくで山登りをしました」と笑うのは、埼玉在住の水上由貴さん。「でも、行けて良かったと思ったんです。理由は、水源地を見れたことはもちろん、山の神社の管理者さんの奥様がたまたまいらしたことです。渡辺さんと話をしている明るい様子に、ふだんからコミュニケーションをとっているんだなと感じられました。渡辺さんは他の地域の方にも明るく挨拶をされていて、地域とのつながりを大事にされていると思ったんです」。

さらに、販売をしている近隣の道の駅や、6FARMが出店中のマルシェイベントにも行きました。

水上由貴さん

実は、1日目のときから「渡辺さんを応援したい」と思ったという水上さん。渡辺さんのいちごへの強い愛情に加えて、6FARMの正社員のユニークな働き方に「おもしろいな」と思ったそうです。それは、早朝5時や6時からお昼まで働き、午後は自由に好きなことをしていいというワークスタイル。「自由なライフプランをつくれますよね。渡辺さんの情熱や柔軟性が良いなと思いました」。

さらに渡辺さんは「僕はマーケティングがよく分からないし、気軽にどんどんアイデア出してください。なんでもウェルカムです」と話し、参加者それぞれに対して感想も述べたといいます。「仲間として見てくださっている印象を受けました。商品であるいちごを食べていないのにもかかわらず『この方なら間違いない』と思えました」と水上さんは話します。

また、チーム内の結束も強まりました。共に山登りをし、移動中に車内で参加者三人だけで話すうち、緊張感がとれたそう。「昨日出会ったばかりなのに、親しくなれて『大きい夢を描いてもいいのではないか』とみんな考えるようになりました。私たちの提案や実践が『ならわい』後も続いていくよう、熱量をもって案を出していこうと2日目で意欲がわきました」。

このあと、フィールドワークをふまえて、各チームが発表を行うことに。どのようなアイデアが出るのでしょうか。第1回後編へ続きます。

取材・執筆:小久保よしの
撮影:都甲ユウタ、寺沢成人(6FARMチームのみ)

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