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ならわい2025 第1回後編・奈良を深め、新たに見えたもの

県外在住の参加者と奈良市の企業がともに新規事業(なりわい)をつくるプロジェクト「ならわい」。
4回目の開催となる「ならわい2025」の第1回が、2025年9月14日〜15日に行われました。
第1回前編に続く後編を、参加者のリアルな感想を交えながら、お届けします。

考え方や価値観も違うメンバーの考えを聞けて、刺激を受けた

2日目の午後。フィールドワークから奈良市創業支援施設「BONCHI」に戻ってきた各チームは、それぞれ振り返りや話し合いの時間をとりました。
1日目と比べると、和やかで親しげな様子。懇親会やフィールドワークなどを通じて、参加者どうしの距離感が縮まったようです。
この日の最後に、各チームが2日間での気づきや今後の方向性を発表することになっているため、見聞きしたさまざまなインプットの整理をし、調査などのネクストアクションについても話してもらいました。

発表の時間です。まず、奈良信用金庫(ならしん)チーム。

「2日間で分かったことの一つが、少ないスタッフで多くの取引先を抱えていて、業務範囲が広いことです。サービス面では、若い年齢層にシフトしていきたいそうですが、若手向けのサービスがありませんでした。

また、現状を改善しなければとイベントなどの手を打たれているものの、顧客にはあまり届いていないと感じました。フィールドワークでうかがったコミュニティスペースも、予約不要で利用できることが顧客に届いていないようです。

私たちがこれからやることは、信用金庫のあるべき姿の言語化と、子どもや学生、法人、個人事業主という3層に対する具体的アプローチだと決めました」

写真右:渡辺由美子さん

参加者の一人である渡辺由美子さんに、どのような話し合いだったのか、聞いてみました。

「未来の顧客とは何か、それはただ若いお客様なのか、そもそも事業者のことが分からないとか、いろいろな話をしました。みんなであれもこれもと風呂敷を広げて話していましたけど、メンターの安田翔さんが先に進むきっかけをつくってくれました。

私は、一般常識や一般的な理論でものごとを整理して語ってしまったときがあったんですが、『奈良だとそうじゃないんです』と安田さんや奈良市役所の職員さんが教えてくれて、『なんとなく知っていることで語ってはいけないな』と立ち返ったときもありました」

第1回を終えてから、発表で話した「3層」を3人で役割分担し、未来のお客様にアプローチするモデルを考えているそうです。また、渡辺さんは信用金庫に関する勉強も始めました。

「銀行と信用金庫の違いを書籍で調べたり、ほかの信用金庫さんのユニークな取り組みを調べたり、金融機関に勤めている学生時代の友人に話を聞いたりしています。金融機関は、お金だけではないいろいろな事業をしているんだと改めて知りました。それで『人の暮らしに近いところで、銀行が支えられないような小さな企業や個人の経済を支えている信用金庫って、おもしろい組織なんだ』と思ったんです」

2日間の感想も聞いてみました。

「東京と奈良では、人と人の距離感が違うなと感じました。奈良は、やはり近いですよね。昨日知り合ったばかりの人たちと同じ課題に向けてコミュニケーションをとるって、なかなかない機会です。それぞれ経験してきたこと、考え方や価値観も違うなかで、みんなの考えが聞けて刺激を受けました。参加前は不安もありましたけど、スムーズにいって、とても楽しかったです」

「ならわい」に参加し「奈良を知りたい」気持ちが増した

次は、奈良ホテルチームの発表です。このチームには「クラシックホテルの体験価値を生む」という大きな課題がありました。

「まず『クラシックホテルだから選ばれているのか?』という疑問が出てきました。客層は60〜70代のご夫婦が多いので、未来の顧客を獲得しないといけません。本館は、歴史的価値のある魅力的な調度品にあふれ、美術館を歩いている感覚になる一方で、機能的には高くありません。

奈良ホテルの魅力について話し合いました。もともと皇族などの迎賓館的な立場の宿として建てられたので、憧れをもって多くのお客様が泊まりにきていましたが、今は別の憧れになっているのではないか、と。

100年後にどうあるべきか、追求していきたいです。奈良ホテル独自の魅力を100年後も残していきたいと思いました。変わらないために残していくものは何か、若い人が何に対して魅力を感じてリピートするのか、奈良ホテルの解像度を上げたいです。

今後は3人で、『奈良ホテルになぜ人が憧れるのか。泊まりたいモチベーションは何なのか』、『リピートにつながらない、足りないものは何か』、『そもそもクラシックとは。その概念を明確にする』と分担して進めていきます」

写真中央:菱田朋佳さん

一つ目の「奈良ホテルになぜ人が憧れるのか。泊まりたいモチベーションは何なのか」を担当しているのが、菱田朋佳さんです。どのような話し合いをしたのか、発表後どのように進めているのか、お話を聞いてみました。

「奈良ホテルを目的に奈良まで行きたくなるような魅力を言葉にしようとチームで話して、進めています。奈良県内のほかのホテルと比べた客観的な視点と、アートなどが好きな方がどうして奈良ホテルや古いものに魅力を感じるのかという主観的な視点の2軸で深掘りしているところです。

奈良に滞在中に、あるお祭りに初めて行ったのですが、ありのままで魅力的だ、というところをうまくPRできたらいいけれど、むずかしいんだな、と感じました。実際に隣でお祭りを見ていた外国人観光客にどうして来たのか聞いたりもしてみました」

「ならわい」は大きなテーマはあっても、具体的な課題は自分たちで見つけていきます。ふだんはエンジニアとして事実に注目して分析などを行う仕事をしている菱田さんは「私にとっては抽象度が高く、『どうしたらやるべきことを見つけられるんだろう』とふだんは使わないところの頭を使って、頭の筋肉痛になったような2日間でした」と笑います。ほかに、2日間でどのようなことを感じたのでしょうか。

「奈良出身や奈良在住の方たちから話を聞いて、日常の奈良を感じられて良かったです。いい意味で、歴史と生活の境界線がないんだなと感じました。

もともと奈良が好きだったんですが、『ならわい』に参加して自分がより積極的になりました。奈良を知ろうという気持ちが増したんです。『どうしてみんな奈良に来るんだろう』『なぜ人は歴史や芸術に興味をもつんだろう』と、いろいろなところに目がいくようになりました。視野が広がったと感じています」

「ならわい」には“奈良愛”の強い人が多く、いい刺激をもらった

最後に、6FARMです。次のような発表でした。

「6FARMさんのいちごは、古都華(ことか)という奈良県オリジナルの品種です。栽培にこだわって特に糖度の高いいちごになっているのが特徴なので、ほかの古都華と区別した、古都華のなかの別ブランドにしたらいいのではないかという話をしました。

6FARMさんが出店していた『シェフェスタ』というイベントにも行きましたが、代表の渡辺邦彦さんを慕って人がどんどん集まってくるところに、お人柄も感じました。飲食業から転身されたこともあるんでしょうけれど、会う人すべてが笑顔になるんです。

そこで、仮ビジョンを『6いちご(仮称)で笑顔をつなげる』と決めました。6FARMさんも、卸し先も、食べる人もみんな笑顔になり、最終的に世界へとつながっていくビジョンです。これから古都華や甘熟いちごがどれくらい認知されているのかを全員で調べ、いちごのネーミングやブランドロゴを考えていきます」

写真左から二人目:水上由貴さん

水上由貴さんに、発表後はどうしているかを聞きました。

「話し合いのときに付箋を貼って整理していたものを、エクセルシートにまとめ、発表した仮ビジョン、通過点を含めた経営目標、戦略、戦術などをみんなで話し合ったんです。ネクストアクションを考えて動き始めたものの、はじめは役割分担を決めずにみんなで手広くやっていこうとしていたので、その後、役割を明確にしました。

私は個人的に、古都華全体の知名度を上げた方がいいのか、6FARMさんの古都華の知名度を上げた方がいいのか悩んだときがあって、チームメンバーに正直に思いをぶつけて、『やっぱり6FARMさんの古都華の知名度を上げよう』と軌道修正ができました。みんなとは『話し合いに一区切りついたら、渡辺さんとコミュニケーションをとろう』と話しています」

2日間の感想も聞いたところ、「奈良のことが本当に好きな人の多さ」が印象的だったそうです。

「『ならわい』の内容的に『プロジェクトを推進していきたい!』という方が多いのかなと思っていたんです。でも、そういう思い以上に“奈良愛”のある方が多くて、しかもその愛がみなさん強いなと(笑)。知識のある方も多く、いい刺激をいただきました。これからも楽しみです」

「ならわい」でさまざまな方との関係性を築いていきたい

無事に第1回を終えた「ならわい」。実は、参加者の方たち同様の熱い気持ちで当日を迎えていたのが、主催の奈良市と企画・運営の一般社団法人TOMOSUによるチームです。

その一人、奈良生まれ・奈良育ちで奈良市役所に勤めている、産業政策課の柏木徹也課長に話を聞きました。

「奈良に可能性を感じていますし、『ならわい』はとても大切に思っている事業なんです。オンライン面談などを経て、ついに奈良でみなさんにお会いできてうれしかったです。あとは参加者の方たちが『ならわい』をつくりあげてくださると思うので、いい形でスタートできたと実感しています」

第1回では、柏木課長をはじめ奈良市役所の職員が各チームに入り、すべて同行しました。柏木課長は6FARMチームに入り、前編の記事でお伝えした山登りなどのフィールドワークにもすべて参加。共に汗を流しました。

写真左から三人目:柏木徹也課長

若い人材が都会に出てしまいやすいなかで、奈良市役所は「いろいろなチャレンジができるまち」「働けるまちでもあり、充実した暮らし方ができる」としっかり示していきたいと考えています。「ならわい」は、そんな思いから運営している事業の一つです。

「奈良をフィールドにいろいろなチャレンジをしていただくことが、まちの活性化につながるのだと思います。でも、『ならわい』で『必ず移住してください』などと考えているわけではないんです。2拠点生活や関係人口といった方法もありますし、関係性を築いていければ十分だと思っています」

まちの事業や、人々の暮らしが、より充実していくように——。

これからも「ならわい2025」は続きます。ご注目ください!

取材・執筆:小久保よしの
撮影:都甲ユウタ、寺沢成人(6FARMチームのみ)

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