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ならわい2025 第5回前編・最終発表という形の「奈良愛」

奈良市役所が2012年から取り組んでいる創業支援事業。
その新たな取り組みとして2022年から実施しているのが、県外在住の参加者と奈良市の企業がともに新規事業(なりわい)をつくるプロジェクト「ならわい」です。
これまで参加した27人のうち、なんと7人が後に奈良へ移住しています。

「ならわい2025」の最終回となる第5回が、2025年12月13日に行われました。
前編では、各チームの最終発表の内容やゲストのお話をお届けします。

4ヶ月の結晶となった各チームの最終発表

会場となったのは、第1回同様、奈良市創業支援施設「BONCHI」です。参加者やメンター、受け入れ先の3企業の担当者のほか、オブザーバーや見学者、取材の方もいらっしゃり、会場には緊張感や期待感が漂います。参加者たちは、最終発表に向けて緊張している様子です。

いよいよ最終発表です。トップバッターは、6FARM(ロクファーム)チーム。

6FARMのLINEグループの既存顧客67人と、新規顧客106人にアンケートをとったところ、課題が見えたといいます。「既存顧客では、完熟のこだわりを知らなかった方や後から知ったという方が50%おられ、さらに昨シーズンは購入しなかった方が37%いました。そこで今回は、完熟いちご=6FARMと認識されること、新規顧客の心をつかむ仕組み、そして継続購入したくなるような働きかけを提案いたします」。

6FARMの完熟古都華は、他との差をつけるために「ROKU BERRY(ロクベリー)」という名前を考案。「美味しさを味わういちごから、コミュニケーションを味わういちご」という位置づけで、「完熟を喜ぶ人数という軸をつくり、その人数で差をつけたい」と話しました。

目指すビジョンは「古都から、人とひとの間を甘くするいちごづくりを」。届けるターゲットとして「感動への投資を楽しむ共感者」と設定しました。これは、きちんと調べて、納得したら感動を期待して高くてもお金を払う(投資)人のことで、共感者とは気に入ったらSNSなどですすめたり、誰かに贈ったりする気持ちが強い人を指すといいます。具体的には、古都華や、古都華の葉や当帰を使った入浴剤、ストーリーブックなどをおさめた期間限定の完熟セットなどを提案しました。

最終発表の資料より

11月に行った中間発表で、メンターからの「6FARMのいちごの届け方の具体的な方法まで考えるといいのではないか」というコメントを、見事に実現したプレゼンでした。

最終発表を聞いた、6FARMの代表・渡辺邦彦さんは「手間をかけて完熟いちごをつくっているので、ブランド化したいと思っていました。(提案が)ほんまにすごいぴったりやなと思っております。アンケートは、僕らはとったことがなかったんですけども、既存のお客さんが僕らのことをどう思っているか、新規のお客さんがいちごの値段をどう感じるかがはっきり分かりました」と話し、奥様の美咲さんも「素敵なロゴをつくっていただいたり、ご提案に本当に感動しました。私たちだけでは考えつかないようなアイデアをたくさんくださって本当にありがとうございます。実践できるように今後も繋がっていただけたらと思っております」とコメントしました。

次は、奈良信用金庫(ならしん)チーム。

まず現地調査を実施し、子ども、中小企業、個人事業主向けという3方向性でアイデアを組み立て、アンケートやインタビュー調査を行ったそうです。発表のタイトルは、中間発表と同様に「ならしんconnect計画」。

「ならしんの魅力は、地域との関係性にあると感じました。地域経済の担い手に繋がるならしんは誰の未来をつくっていくことができる。そこに魅力を感じています。一方で、課題は口座の保有者に高齢者が多いことです。私たちは、ターゲットとする客層にならしんの価値を提供できていないととらえました」。

そこで事業者向けのサービスとして、ならしんの取引先と地域の人を結ぶ求人情報のプラットフォーム「ならしんconnect」を提案。人手不足に悩んだり、バイトのシフトを最適化したいと考える中小事業者と、働き手の思いをつなげます。人とお店の可能性を広げるサービス内容や、イベントなどによるつながりの創出の企画なども提案しました。

最終発表の資料より

ファミリー向けのサービスは「ならっこキッズサービス」として、誰でもが参加できるワークショップ・イベントの開催を提案しました。例えば、ならっきー通帳を親子でつくってスタンプラリーを行い、ためる楽しみや地域の方との繋がりを体験します。ならっきーとは、ならしんの公式マスコットキャラクターです。

最終発表の資料より

さらに挙げたのが、「ならっきー体操」。メンバーの城寳佳也(じょうほう・かや)さんが「歌詞と曲、体操を考えてまいりましたので、皆さんと一緒に体操させていただきたいと思います!」と宣言。音楽が流れ始めると会場内は急に明るい雰囲気になって、少しの時間、みんなで体操しました。

最後に「私たちは、ならしんが奈良で暮らす人たちの可能性を応援するパートナーになることを期待しています。共存同栄、古き価値観と新しい価値観が共存し、誰もが暮らしを楽しめるまちに発展し続ける未来を描いております」と締めくくりました。

最終発表を受けて、奈良信用金庫の堀田裕一郎さんは「体操まで披露いただきまして、感動しております。僕らもずっと、ならしんをどうやったら成長できるかと考えているなか、僕らより必死に考えてくれて、嬉しく思っております」とコメント。

堀田さんは続いて「強みは取引先同士のハブになることだと思っていたものの、なかなか具体的なサービスまで思いつけていませんでした。ニーズがあると思いますので、実現していきたいです。これからもアドバイスいただければと思っております。本当に僕、感動して…ちょっと泣きそうになってます。ありがとうございました」と話しました。

最後に、奈良ホテルチーム。

着目したのは、奈良ホテルの本館が耐震改修などはしているものの、今も116年前の姿を残していることでした。「100年以上にわたり建物を当時のまま利用しているホテルは少なく、文化的・歴史的価値の高い独自の価値を持つホテルだといえます。そこで我々は、奈良ホテルは活用と保存の美しい循環を体現しているホテルであるという答えに行き着きました。つまり『奈良ホテルは生きる文化財である』と定義しました」。

リサーチで「この部分が変わればより魅力が最大化するのでは」と感じた部分として、①組織・風土の硬直化、②アイデンティティの迷走、③期待値との不一致を指摘しました。従業員15名のアンケートによって知見を深められ、「奈良ホテルで働かれている皆様には、ホテルを今の姿のまま残し、温かみのあるサービスをお客様に提供したいというプロフェッショナルの思いがある」と感じたそうです。

「そこで『奈良ホテルは、奈良の職人のつなぎ手になる』というビジョンを提案します。職人とは、ここでは技術者だけではなく、ホテルマンや料理人、ルームメイクの方など奈良ホテルに関わる人はすべてプロフェッショナル、つまり職人であると定義します」。奈良ホテルの維持のみならず、奈良の文化財や伝統技術、サービスなど、長期的に幅広く職人をつなぐことを目指す、と話しました。

中間発表の後に、奈良ホテルの広報担当の津川あかねさんから「提案のなかに既に取り組んでいるものも複数ある」と指摘されたことや、メンターから「ひと味違うホテルであることを分かってもらえるようなメッセージを打ち出せるといい」とフィードバックをもらったことをふまえ、チームは最終発表の内容を大きく変えたのです。

ビジョンの実現のため、短期・中期・長期の3つのフェーズに分け、職人というブランドを確立する流れや施策も提案しました。最後に「職人の技術を継承すれば、奈良ホテルアカデミーの設立や文化財を保全するために収益から独立採算基金をつくり、これから100年先も維持し続けるシステムをつくることができます」と将来を見据えたアイデアも出し、発表を終えました。

最終発表の資料より

津川さんは「今回私たちでは到底考えつかないような大枠のアイデアをいただいて、大変うれしく思います。キーワードがとてもかっこよくて、すごいなと思って聞いていました。期待値との不一致については、それをいかに少なくしていくかが私たちのお仕事の一つでもあります。単なるサービスマンではなく職人という域でとらえていただけたのは本当におもしろい企画だと思います。ホテルに持ち帰り、みんなで進めていきたいです。ありがとうございました」と話しました。

「不完全でもいいから、とりあえず進めてみる」が、未来を創る

最終発表が終わって参加者が安堵した雰囲気のなか、講演が始まりました。ゲストは、株式会社梅守本店の取締役・梅守志歩さんです。同社は、手鞠わさび葉寿しで知られる「うめもり」や、山添村の宿泊施設「ume,yamazoe」を運営していて、志歩さんは「ume,yamazoe」のオーナーでもあります。今日の講演テーマは「0から始める 自分だけのなりわいの作り方」です。

株式会社梅守本店は、志歩さんの父親である梅守康之さんが創業し、代表取締役社長を務めている会社。志歩さんは大阪の広告会社に勤めていたのですが、2013年、奈良に戻って家業に入社しました。2015年に奈良県・東吉野村にオープンした「オフィスキャンプ東吉野」のデザイナーとの出会いで、「給料をもらう以外に、自分でなりわいをつくり、ごはんを食べていく生き方があるんだ」と知ったことが転機に。手鞠わさび葉寿しで使っているわさび葉は山添村産だった縁や、「自然の流れを日常で感じられる場所で生きたい」という思いから、山添村に住み始めたのです。

山添村で地域の人たちの知恵や「giveの精神」に触れた志歩さん。一方で、地域の人たちが「楽しみが少なく、楽しめることを強く欲している」とも感じたため、自分に何ができるかを考え始めました。

「私は営業の仕事しかしたことがないんです。だから、人と話すのは不得意ではない。旅行会社さんとのパイプはある。観光業であれば、私にもできることがあるかもしれない。地域の人たちと旅行会社の間で、パイプ役になろう——。そう決めました」。志歩さんは、地域の人の「生きる喜びや知恵」が活躍する場として、民泊の宿泊客を受け入れ始めました。

「こんな感じで仕事をつくれるのかもしれない」と、志歩さんがさらに手がけたのが「ume,yamazoe」でした。

実は、志歩さんは四姉妹の三女で、長女の姉は心の病を、妹は白血病を患っています。そんな家族を身近に感じながら育った影響が大きいそうです。「私がやりたいのは、人の感覚が優しくなること。優しい世界をつくりたいと企画したホテルです。手法はなんでもよかったんです」。

県外や村外からだけでなく、地域の人たちも来やすい場になるように、地域のおばあさんたちのもとを訪ねて依頼し、「ume,yamazoe」で山添村産の野菜の販売も始めました。「『今どこに立っていて、何を表現していて、まわりからどう見えていて、そこ埋めるために今何ができるんだっけ』とよく考えて、とにかく泥臭くやってみることをおすすめしています。『不完全でもいいから、とりあえず進めてみる』が、未来を創ると思います」と志歩さん。

最後に、なりわいを考えるときの3つのポイントを紹介しました。「①求められているものではなく『今の自分にできること、得意なこと』を真ん中に置く。②大事なのは、何のためにやるのか。自分のなかで立ち返れるピュアな思いをもっておく。③やり方は無限。方法にはとらわれすぎない。変わってもいい」。

誰もが取り入れやすく、親しみやすい志歩さんのお話は、参加者の心や頭に響いたことでしょう。

「生き方が変わる一つのきっかけになったと思う」

次に、「ならわい」を通しての変化や今後に向けて、参加者全員が3分ずつ個人発表を行いました。

奈良の印象の変化として、「これまでは『推し活』の[よ小1] ように奈良に通っていたけれど、『ならわい』でより一歩踏み込むことができた」「店舗を営む方々のインタビューなどを通じて、奈良の顔が見えた部分があった」と、奈良に住む人々との出会いを通じてさまざまな奈良を知ることができたという声があがりました。

3人で一組になって共同作業を進めていくスタイルで学べたことを話した人も多数いました。例えば、以下のコメントです。

「これまで触れ合うことがなかったタイプのお2人に恵まれて、自分がもっていなかった角度の思考に触れられた」

「これまで、自分がいかに機能的なことに重きを置いていたか知った。多様な考え方があるときに、相手の考えのよさを見つけ、どうやって議論していったらいいのか、共感をすることなどを学べた」

「これまでは、自分が暴走して、それを止めてもらったりして仕事をしてきたと実感。自分たちでチームビルディングをして、みんなが幸せになるためにどうしたらいいかを考え続けたことで、成長できたと思う」

今後に対しても、「自分の思いを形にしていきたい。今お金の勉強をしていて、資格をとって、子どもにそれを教える活動にたずさわりたい」「当事者として(事業の)中に入るような体験をさせていただいて、生き方が変わる一つのきっかけになったと思う」などと、前向きなコメントが見られました。

最終回のすべてのコンテンツを終えて、ほっとした表情の参加者たち。それをあたたかいまなざしで見守る事業者やメンター、運営スタッフの姿がありました。

その後、懇親会が行われ、参加者は達成感が満ちた表情で交流していました。みなさん、本当にお疲れ様でした!

第5回後編では、参加者や運営側の声をお届けします。

取材・執筆:小久保よしの 
撮影:都甲ユウタ

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