
県外在住の参加者と奈良市の企業がともに新規事業(なりわい)をつくるプロジェクト「ならわい」。「ならわい2025」の最終回となる第5回が、2025年12月13日に行われました。
第5回前編に続く後編では、「ならわい2025」がどうだったのか、参加者や運営側の声をお届けします。
「ならわい」は、仕事とは違うことを経験できる
「ならわい」を完走した参加者に、最終発表を終えて何を感じているのか、各チームから一人ずつインタビューをしました。一人目は、6FARMチームの浅川久美子さんです。
「私は奈良県出身で、関東在住です。家族の入院などの都合で帰省することが多くなったので、せっかくなら地元のプロジェクトに参加したいと思って参加しました。『ならわい』はとても濃い4ヶ月間で、参加してよかったですし、おもしろかったです。
私はフリーランスデザイナーで、仕事の進め方や感性などが近しい人がいる業界にいるため、違う職種の方たちとチームをつくっていくのには慣れていませんでした。目標の設定やこだわり、価値観などが異なるんですよね。振り返ると反省する部分も多かったかなと思います。慣れない環境に最初は手探り状態でしたが、仕事とは違うことを経験でき、いい気づきになりました。結果的にそこが一番おもしろかったと感じています。
また、起業家や移住者が多く、私が奈良に住んでいた頃より賑やかになったと感じました。歴史ある土地のおもしろさを活用すれば若い人も楽しめますし、チャレンジできる素材があふれているところなんだと、これまでとは違う角度から奈良を見ることができました。奈良に住んでいる方、特にクリエイターの方たちとさらにつながっていけると嬉しいです。
チームメンバーとは、最終発表が終わった今も会議をしているんです。今後、奈良で仕事に関わらずいろいろな活動ができたらいいなと思っています。何かしらものづくりに関わっていきたいので、たとえば6FARMさんのいちごの葉で何かおもしろいことができないか頭をひねっています」

二人目は、奈良信用金庫チームで「ならっきー体操」を披露した、城寳さん。
「自分の職種とは違う企業さんで、特に地域の信用も大切である金融の企業に対して、どういう提案をしたらいいのか、はじめは戸惑いました。ご担当者さんたちのお悩みや企業の問題をお聞きして、それを解決するのはおこがましいとも思ったんです。
でも、信用金庫の事業は地域貢献の要素が強いことを初めて知って、私の専門は地域の健康づくりなどの公衆衛生学なので、『共通項がある。これまでの経験を活かして提案できるんだ』と途中で気づきました。
メンターのやっさん(安田翔さん)からいただいた『理論はかたまっているけれど、ワクワク感やおもしろみがない』というアドバイスを機に、オリジナルの『ならっきー体操』が生まれました。ならっきーの特徴の一つに『お客様のもとへ迅速に駆けつける』があります。そこに信用金庫らしさを感じて、キーワードとして入れたんです。
長年奈良に通っていて、奈良の方に優しいイメージを持っていましたが、『ならわい』でもそれは変わらなかったですね。最終発表の最後、奈良市役所の方たちが一緒に真剣に踊ってくださるとは思わなかったです。あたたかさを感じました。
最終発表の後、(奈良信用金庫の)堀田さんが感動されていて『泣きそうになった』とおっしゃったとき、『ここまで悩んできてよかった。参加してよかった』と思いました。今後も年に2回くらい奈良に通う予定です。奈良の方たち、特に健康増進にまつわる活動をされている方たちと知り合うことができればと考えています」

三人目は、奈良ホテルチームの有田絵理さん。
「とてもいい経験ができました。大きかったのは、チームメンバーに恵まれたことです。建築が好きな私と、プロジェクト全体を俯瞰してくれるひしこさん(菱田朋佳さん)と、クラシカルなものにアンテナを張っているあーさん(池田梓さん)。それぞれの視点がおもしろく、この3人だからこそできた最終発表でした。
中間発表の後、奈良ホテルの魅力は何なのか、改めて言語化しました。『100年前からある建物をホテルとして使っている。ホテルだったからこそ24時間365日人がいて、100年もったよね』と私が話したんです。ひしこさんが『ホテルじゃないとだめなの?』と問いかけてくれて、奈良ホテルは公的資金ではなく自分たちで稼いでいるから継続していることに着目し、10ページにおよぶレポートをつくり上げてくれました。
それを3人で整理して2ページに凝縮させました。その時点では職人を技術者だととらえていましたが、あーさんが『建物、ホテルを維持していくなら、奈良ホテルに携わる人が職人だよね』とキラーパスを出してくれたんです。ゴールにたどりつけるのか、不安だったんですが、3週間かけて全員が納得できる答えにたどりつけました。最終発表で『職人の定義は奈良ホテルを支えるすべての人』というスライドを出したとき、『おぉ』と声が上がって、うれしかったですね。
チームの2人が魅力的で、『美しいな』『誠実だな』などと思う瞬間がたくさんありました。一方で私には、頭の悪さというコンプレックスがあったんです。でも、人の魅力が見つけられるところや、好きなものを探求していくところは私の強みなのかなと思えた部分もあって、そう考えられるようになったことも『ならわい』の成果かなと。人と比べても仕方ないし、みんないいところがあるんですよね。自分のいいところも大事にしよう、と思えました。
私は奈良県出身で、『ならわい』の期間中に東京から奈良に引っ越しました。『ならわい』のみんなに『奈良県民になっておめでとう』と言われたのが新鮮でしたね。今は奈良で、建築リフォームの施工管理の仕事をしています。
ビルに囲まれていた都会生活から一転して、自宅から山や太陽が見える暮らしになりました。自転車通勤をしているのですが、空が美しくて、毎朝空の写真を撮っています。先日は彩雲に目を奪われて、感動しました。日々、いい環境だなと実感しています」

参加者のみなさんの新たな一歩を知れるととてもうれしい
最後に、企画・運営を担当している一般社団法人TOMOSU・代表理事の中島章にも、4年目となった「ならわい」の感想などの話を聞きました。

「最終発表はみなさんが力を尽くしてくださるので毎回楽しみにしていますが、今回どのチームもクオリティが特に高かったと感じました。個人的には、中間発表から最終発表に向けて内容を大きく変えた、奈良ホテルチームが印象的でした。最後の集中力や追い込みがすごかったですね。
運営として4年目だからこそ更新した部分もあります。例えば、プレゼンテーションです。社会人でもプレゼンに慣れていない方はいらっしゃいますし、チーム内での目線合わせにもなるのではと必要性を感じて、今回は最終発表に向けてプレゼン講座を入れてみました。『ならわい』終了後にとったアンケートでは、それが好評だったようです。
もともと『ならわい』は、移住や起業の機会になればと願って奈良市と始めたプログラムです。僕は東京で約10年働いてから奈良にUターンしたのですが、そのきっかけはある起業家プログラムに参加したことでした。奈良に住み、奈良で働くきっかけになるような、奈良に一歩踏み込んだプログラムをつくりたいと考えたんです。目指しているもの、やりたいことは当初から変わっていません。奈良で事業をやってみたい方が、疑似体験できるプログラムだと思っています。
毎年9人しか参加できないのですが、その1人が将来100人や1000人に影響を与えるものをつくるかもしれません。何かを成したい人が奈良に来るきっかけになったり、キャリアを見つめ直す機会になったりすればうれしいです。
『ならわい』終了後、今回参加された方から、『県内で拠点をもちたい』などの相談をいただいています。みなさんの前向きな気持ちや新たな一歩を知れるととてもうれしいです。
これまでの参加者が36人いらっしゃるので、今後、東京で同窓会イベントができたらおもしろいなと考えています。『ならわい』の縦のつながりをつくって、さまざまなきっかけにもなればと思います」
「ならわい2025」は終了しましたが、参加者や事業者の“人生”や“なりわい”は続いていきます。それぞれが次の一歩を踏み出した先で、いつか「そういえばきっかけは『ならわい』だったね」という声が聴こえてくるかもしれません。お疲れ様でした!

取材・執筆:小久保よしの
撮影:都甲ユウタ
