啓林堂書店

TOP ならわい2022探す、出会う、読む、保管する、手放す。読書生活の全てに寄りそう事業開発を

探す、出会う、読む、保管する、手放す。読書生活の全てに寄りそう事業開発を

プロジェクトの概要

1974年創業。奈良県内で、書店5店舗と学習塾1軒を営む啓林堂書店(けいりんどう しょてん)。ここで、3代目・林田幸一さんとともに「読書の生活の全てに寄りそう」新規事業の調査・企画に取り組むプロジェクトです。

参加者のみなさんに期待すること:「量は多くなくてよいので、『本を読む人』だといいですね……書店ですから(笑)。スキルとしてはマーケティングやサプライチェーンマネジメントに携わっている方が望ましいです」

参加者のみなさんに持ち帰ってほしいこと:「東京と地方都市では、事業のつくり方が変わるものです。特に『地方で事業をしたい』と考える方には、確かな実感の持てる機会にしてほしいです」

長年、本を「売る」ことをなりわいとしてきた書店。

さまざまな要因により、その店舗数は減少しています。娯楽の多様化、書籍・雑誌の販売部数の減少、Amazonを中心とするオンライン流通の台頭、店主の高齢化。

1990年代には20,000店以上あった書店数は、現在10,000店以下に。

その一方で、書店の形態は多様化しています。

自身の哲学を持ったオーナーが選書する「セレクト書店」が日本各地に出店。また、2018年に六本木で誕生した入場料のある本屋「文喫」、一冊の本からインスパイアされる展覧会を行う書店「森岡書店」など、独自のコンセプトに基づいた書店も増えています。

そうした中にあって、地域密着型で複数店舗を営む「ローカルチェーン書店」の未来を模索する人たちが奈良にいます。

奈良県内で、書店5店舗と学習塾を営む株式会社啓林堂(けいりんどう)書店。

BONCHIから徒歩4分、奈良小西さくら通り商店街にある「啓林堂書店 奈良店」を訪ねました。

「こんな会社です」

迎えてくれたのは、林田幸一さん。1989年生まれの幸一さんは、京都大学薬学部を卒業後、クックパッド、リクルートに勤務。東京での生活を経て、2019年に啓林堂書店へ参画しました。

現在は専務取締役に就任。約115名(アルバイト含む)が働く啓林堂書店の未来を描こうとしています。

まず、こう話しはじめた幸一さん。

「今は、リアルな書店の存在意義が問われている時代です」

どういうことでしょうか?

「本をAmazonで買うという選択が、一般的になりました。スマホがあれば、どこからでも注文できて、早ければ翌日には家まで届きます。それに比べると、リアルな書店には『わざわざ感』がありますよね。足を運んで、本を探しても、在庫がない場合だってあります」

ここで、幸一さんは啓林堂書店の成り立ちを紹介してくれた。

「もともと公務員をしていた祖父が、1974年に起業しました。啓林という名前には『知をひらき、人が集まる』という意味が込められています」

2000年代に入りインターネットが広く普及する以前、経済からファッションまでありとあらゆる情報源を担っていたのが、本と雑誌だった。そして、本と雑誌を「手に入れる場」として、多くの人が書店を訪れた。

「創業から50年近くを迎える今、書店の経営環境は大きく変化しています。そこで、長年『まちの本屋さん』として通ってくださるお客さまのニーズには応えつつ、書店の新しい存在意義を見出したいんです」

「取り組むプロジェクト」

今後、啓林堂書店は、新規事業を立ち上げるという。そのテーマは「読書の生活の全てに寄りそう」。

「これまでの書店は本を『手に入れる場』でした。でも、カスタマージャーニーの視点に立つと、その前後にも、さまざまなステップがあります。具体的には本が『欲しくなる』『探す』『出会う』『読む』『保管する』『手放す』などです。それらの各ステップから事業を展開していきます」

ここで幸一さんは、店内を歩きはじめた。

「たとえば、『出会う』について。欲しい本はわからないけど、なんとなく『音楽』というキーワードが頭にある。そんな時に書店を訪れると、思いがけない一冊が目に留まることがあります」

「そうした、お客さまの潜在意識に訴えかける『偶発性』を増やすことも、事業の可能性の一つですね」

潜在意識を起点とした、実店舗とオンラインの連携にも可能性を感じているという。

「書店で購入したお客さまが『次に読むと面白い本』をまとめてオンラインで取り寄せできるようにするなど。実店舗における場所や在庫のハードルを乗り越える手段として、オンラインを活用することも可能です」

新規事業については、2022年度を調査の年と位置づけ、動き出したばかり。だからこそ、既存の店舗にとらわれることなく、さまざまな可能性を模索したいと考えている。

「たとえば『手放す』には、中古本買取店へ持ち込むのが本当によいのか?『本を手に入れる場』だからこそできることは何か?」

「こんな関わり方を考えています」

幸一さんは新規事業を考える上でなによりも「調査」が欠かせないと話します。

「リアルなお店の存在意義が問われているのは、小売業に共通する課題です。書店に限定することなく、購買の前後プロセスに進出した小売業の事例を調べていきたいです」

どんな人とプロジェクトに取り組みたいですか?

「量は求めませんが、『本を読む人』ですね。その上で、現在企業でマーケティングやサプライチェーンマネジメントに携わっている方でしたら、経験をぜひ活かしてほしいです」

啓林堂書店では、2022年度の調査をもとに、次年度以降の事業立ち上げをめざすとのこと。幸一さんは、こんな未来を描いている。

「『本屋さんに行こう』ではなく『啓林堂に行こう』といわれる存在になりたいんです。新規事業をきっかけに、啓林堂書店へわざわざ足を運んでいただけるようになりたいです。その成功の道筋を、ならわいで出会ったみなさんとご一緒できたらうれしいです」

「参加を考えるみなさんへ」

奈良に帰ってから、幸一さんはあることを日々感じているといいます。

「東京と地方都市では、事業のつくり方が変わります。奈良は、東京に比べて選択肢が少ない代わりに、関係の深さが重要視されると思います。一緒に仕事をする方との関係においても、一度信頼を築くと、長いお付き合いとして継続しやすい傾向にあります」

その上で、参加を考えるみなさんに伝えたいことがある。

「右手に東京で培ったビジネスの感覚を持ちつつ、左手で奈良特有の関係性の深さを大事にするというか。その両利きで仕事に臨んでいる感じがあります。将来、地元へのUターンを考えていたり、地方での事業展開を視野に入れている人には、ぜひこの感覚を体感してほしい。ならわいを通じて、地方都市における事業づくりの手触りを得てほしいです」

「BONCHIの目線」

林田さんは、不思議な巻込み力の持ち主です。

この日はBONCHI、そして奈良市役所のメンバーで取材にうかがったはずが、いつの間にか啓林堂書店の新規事業について真剣にアイデアを出し合っていました。

きっとならわいでも、みんなでワイワイと話し合いながら、啓林堂書店の未来を形にしていくのではないでしょうか。

暮らしにおいても、仕事においても、「顔の見える関係」が築きやすい地方。だからこそ、仕事の反応もよりダイレクトに感じやすいように思います。

地方での活動を考えている方はぜひチャレンジしてください。

(2022/7/14訪問)

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