
11月25日に最終発表をひかえ、各チームが10分間で提案を行う中間発表。企業とメンターのみなさんからのフィードバックをもらい、プロジェクトを練っていきます。
2022年度はオンラインで開催しました。「ならわいに集うみんなと交流する時間がもっとほしかった」という参加者からの声を受けて、2023年度は奈良での開催となりました。

発表直前の会場からは、色々な声が聞こえてきました。
「前日入りして、チームで打ち合わせができてよかったな」
「早めに到着して、猿沢池のほとりで発表の練習していたんです。猿沢池は天平時代につくられたんですよね…1300年という大きな時間を感じながら、プレゼンの一分一秒を気にするのが不思議で(笑)。ふだん暮らしている東京ではなかなか味わえない時間がよかったです」
10/22のスケジュール
11:00-グループごとにチェックイン
11:10-各チームから中間発表(1チーム10分+コメント・質疑10分)
12:10-事務局からのお知らせ
12:20-昼食
以降はフリータイム。17:00までチームごとに部屋を用意
発表
錦光園
家族経営の墨工房である錦光園。
参加者募集のインタビューを行った際に感じたことがあります。
今の錦光園に必要な関わりは、コンサルタントやリサーチャーとして外部から変えていくひとたちではないこと。内部でもなければ外部でもないところに立ち続け、間を行き来しながら、ともに新しいものを生み出していく存在。
そうして関わり合うことで、錦光園も参加者もお互いに変わっていく。
一人では辿り着けない墨の未来を、一緒に考える仲間が必要ということでした。
そんな関わりをめざして、活動している錦光園チーム。
3年間に及ぶ中期計画を立てた上で、ならわいを初年度と位置付け、提案を行います。
チームからの提案は、墨のカプセルトイ。

墨を日本の伝統工芸と位置づけました。
価格は1,000円。カプセルに入った桐箱を開くと、墨の香りが広がります。錦光園でのにぎり墨体験に特別価格で参加できる招待券もセットです。

チームの発表を聞きながら、頭をひねる長野さん。

長野さんが、日ごろ一人で墨の未来を考え、悩みつつも歩み続けていることが伝わってきました。
チームの発表は、ゆうほさんの呼びかけとともに終わりました。
「長野さん、思い届いていますか?」

長野さんは、提案をどのように聞いたのでしょうか?
「まずは熱意がすごいなあ、と思いました。原価率が45%と高い点はありますが、このプロジェクトについては収支はトントンでじゅうぶん。それ以上によかったのは……墨について、考え方の枠組みを変えられたこと。自分一人では、どうしても『墨として』考えていたのですが、『伝統工芸として』打ち出すのもありなんだな。間口が広まるな、と。」
「そもそも自分一人だとカプセルトイという発想が出てこないので。すごくおもしろいなと思いました。さらに、にぎり墨体験を組み合わせることで、うちに来てもらえるのがいいですね。」

「やりましょう。これはやってしまった方が、絶対によいです。最終発表に向けて、さらに煮詰めていくことで、もっとよい企画になるともっとうれしいです。」
錦光園としてぜひ実現したい。長い目で見たときに、チームメンバーのなりわいにもつながってほしい。長野さんからはこんな意見もありました。
「気になるのは、墨の保存性ですね。桐箱だけでは、ぜったい不十分です。設置場所についても。神社仏閣というアイデア自体はおもしろいんですが、どちらの神社仏閣に置かせてもらうのか。関係性を大切にしていきたいです。」
続けて会場からも、フィードバックがありました。こうして意見を受けとる機会は、個人で新規事業を立ち上げてもなかなか持てません。
参加企業であるペーパルの矢田さんから。 「購入後のお客さんの体験、いわゆる“カスタマージャーニー”を描けるとよいのかなと思いました。ぼくは、今日はじめておはじき墨を手にしました。香りがよくて、ずっと嗅いでいたくなりました…(笑)。じゃあ、ずっと香りを楽しみ続けるにはどうしたらいいのかな?」「あと、ターゲットのブレも感じました。墨に興味のない人に届けるのなら、購入前に香りをどう伝えるのか?」 |
メンター・佐藤さん 「矢田さんの話にもあったように、カプセルトイだと、買う前には香りが伝わりません。設置方法に工夫をするなど、考えるとよさそうです。」 |
奈良市役所の柏木さん 「人が商品を選ぶのは、ほんの数秒だと言われます。もしカプセルトイ専門店に置いたとしたら。選んでもらうために、引きつける要素を考えたいです。」 |
メンター・安田さん 「錦光園さんのOKもいただいているとはいえ、45%という原価率は高いのでは?みんなの人件費はどうしますか?コストの組み立て方を見直してはどうでしょうか。たとえば、桐箱である必要性がどこまであるのか?」 |
安田さんの問いを受け、チームのみなさん。
「カプセルトイを200個販売できたとしても、利益は40,000円。ですので、タッチポイントを増やしていきたいです。」
錦光園チームの発表は終了です。
Good Job!センター香芝

続けて、Good Job!センター香芝チーム。Good Job!センター香芝の森下静香さんが見守る中、発表がはじまります。
まずは、この2ヶ月間を通じて得た、ならわいのプロジェクトにおいて大切にしたい価値観を共有していきます。


Good Job!トラベルを「障がいを持つひととの見えないかきねをこえる」手段と位置づけたチーム。
興味の深度に応じて、2つの提案を行います。

提案の特徴は、プロジェクトを通じて、メンバーと参加者がともに成長しあう学びの場になっている点。
Good Job!センターをはじめて訪れるひとは、メンバーの説明による館内ツアーを体験。その後は鹿コロコロの絵付け体験を行います。

また、何度もGood Job!センターを訪れたことのあるディープなファン向けには、次のようなプランを提案します。

提案されたツアーの各コースには「東洋民俗博物館、小川二楽窯、おてらおやつクラブ、法華寺」といった名前が連なります。奈良のことをよくリサーチしたことが、伝わってくる内容でした。
森下さんは、スライドが切り替わるたび、写真に収めていきます。

チームが発表を終えたところで、森下さんに感想を聞きます。
「ディープツアー、おもしろいですね!わたしもはじめて知る情報があり、掘り下げていきたいと思いました。」
会場からも、フィードバックがありました。
メンター・佐藤さん 「ツアープランについて、『ディープな奈良好きの観光客向け』と『奈良に住んでいるひとが向け』がありました。両方追いかけますか?まずは、どちらかに絞って形にしていくのも一案だと思いました。」 |
メンター・田島さん 「プレゼンの流れがよくて、引き込まれました。佐藤さんの話にもあったように、『ハレの日』として奈良に観光で訪れるひとと、奈良で育児もしつつ『土日をどう過ごすか?』を考えるひと。どちらに届けていきたいのかなと思いました。」 |
2人の話を受けて、TOMOSUの中島さん。
「10月にGood Job!センターで開催されたオープンウィークにも通じる提案だと思いました。ぼくは家族で行ったんですが、大人はトークイベントを聞いて、子どもは遊んで、よい時間を過ごせました。」 |
ペーパル

最後は、ペーパルチームです。ペーパルの矢田さんが見守る中、発表がはじまります。
「奈良県が生産量日本一を誇るくつした。その製造工程から出る端材を活用し、奈良で循環型社会を実践するくつしたペーパー(仮称)を提案します。」
用途は、BtoB(企業向け)のプロダクトとしてくつしたメーカーの帯やショップ袋、BtoC(ユーザー向け)のプロダクトとして靴下の収納ボックスを提案。
チームからは、ペーパルの矢田さんに商品サンプルを手渡す場面も。

矢田さんはどのように感じたのでしょうか。
「BtoBの商品開発に可能性を感じます。一社のくつしたメーカーさんからはじめて、ブランディングにもつながるとよいのでは。製造にかかるコストやロットについても、話していきましょう。」
発表を受けて、メンターの3人からフィードバックがありました。

安田さん「繊維くずの再利用を考えると、全国展開するアパレルメーカーに広げたほうがスケールメリットは期待できるのでは。」
チーム「アパレルメーカーから排出される繊維くずを再利用した紙はすでにつくられています。まずは奈良のくつしたメーカーさんと取り組んでみたいです。」
安田さん「なるほど。奈良のくつしたに限定することで、メッセージも伝わりやすそうです。あとは、チームで共有しているくつしたペーパーへの思いを、使うひとも共感できるストーリーがあるとよいのではないでしょうか。」
田島さん「わたしもそう思います。『奈良とくつした』をキーワードにすることで、メッセージが受け取りやすくなります。あと…繊維くずの一生(ライフサイクル)についても考えてみたい。くつしたペーパーが、最後はくつしたに戻れたら面白いのでは。つまり、本来焼却処分されてしまう繊維くずを紙にすることで命を長らえさせるのか。それとも、紙を経て、くつしたになって、また紙になって……と命を巡らせていくのか。」
佐藤さん「循環ですよね。紙を軸とするくつしたのブランディングにもつながるかもしれません。」
TOMOSU・中島さん 「田島さんの話していたようなサイクルを生み出すことは可能なんでしょうか?環境負荷についての視点もほしいです。」 |
奈良市役所・柏木さん 「環境面に加えて、くつしたの繊維くずを入れる効果も考えたいです。廃棄米を用いたkome-kamiについて『江戸時代の紙には、お米が漂白剤として使われていた』という話を聞いて、腑に落ちた記憶があります。」 |
ランチタイム
これにて、各チームの発表とフィードバックは終了です。
昨年度のオンライン開催から現地開催へ切り替えた中間発表。
会話のベクトルがあちこちへと広がっていき、話し合いが活性化し、各チームのプロジェクトがより深まった印象です。
特に、紙を扱うペーパルチームや香りをテーマとする錦光園チームにとっては、現地開催だからこそつかめたことが多い様子。
さて、ここからはランチタイム!

大きなテーブルを囲み、ならまちの「MIA’S BREAD」さんのサンドウィッチをいただきます。
ランチ中には、チームの枠を超えて、隣り合うひと同士の会話が生まれていきました。
「やっぱり奈良に移住したいんです。家と仕事、どっちを先に考えたらよいのかな?」「転職を考えて、企業を探し中です。」という声も聞こえてきました。

ならわいを通じて、仕事の選びかたにも、心境の変化があったようです。
どんな仕事をしたいですか?とたずねてみたところ。
「ずっと事務の仕事をしてきたんですが、ならわいに参加したことで、新規事業を立ち上げる企画の仕事に興味を持ちました。Google ドライブやSlackを使いながら、チームで仕事に取り組んでいくのも初めての経験。これからにきっと活かせると思いました。」
ランチタイムのあいだ、ずっと笑顔を見せていたのが市役所の柏木さんです。
「ならわいには、奈良ではじめたいひとたちが集います。チームの枠を超えて、ごちゃ混ぜに交流できる機会がほしかったんです。」
チームごとのワーク
ごちそうさまをしたところで、後半へ。

中間発表のフィードバックをもとに、各チームでプロジェクトを深めていきます。
ペーパル

チームの話し合いに、ペーパルの矢田さんも参加。
矢田さんがカバンから取り出したのは、過去に試作したという化学繊維をもちいた紙。
「くつしたの紙をつくるとしたら、1ロットが4トンになります。これは、紙袋でいうと84,000枚。この枚数を1、2年で使えるだけの需要が見込めると、商品化をしやすいんですね。」
最終発表に向けて、奈良のくつしたメーカーさんに問い合わせることになりました。
Good Job!センター香芝

チームでは、Good Job!センター香芝の森下さんもまじえて話し合いが進んでいきます。
「いい企画なので、実現にむけて実施のハードルを下げていきたいですね。」と森下さん。
移動手段をマイクロバスから公共交通機関へと見直してみる。アポイントが必要ない訪問先を増やしてみる。そうして、5人程度から実施できるものになれば。
チームには、すでに奈良に移住したまつうらさんがいます。ならわいの役割や可能性が見えてくるようでした。
「ならわいは、仕事づくりに加えて、住みはじめたばかりの奈良にソフトランディングしつつ、自分の居場所をつくっていけるプロジェクトだと感じています。」
錦光園

「ターゲットはインバウンドの方にしぼるのか?それとも日本人の観光客にも届けたいのか?」
「カプセルトイの設置場所として、神社仏閣やカプセルトイ専門店は適していないのかも。お土産店やなら工藝館はどうだろう?」
みなさんからのフィードバックを受けて、プロジェクトの細部をより深めている錦光園チーム。

チームのホワイトボードを見ると、「匂いにたどり着くまでに」の文字が目に留まりました。
購入前に香りをどう伝えるのか? |
この問いを受けてのテーマでした。
結論には至りませんでしたが、「香りのテスターを用意しては?」「テスターには何をつかおう?」「墨をつくるときに出てくるかえり(バリ)を利用させてもらっては?」といった意見も。

チームではカプセルトイを手配して、最終発表に臨むこととなりました。
次回は11/25の最終発表。あと1月、全力で走り抜けましょう!