
最終発表@奈良市
ならわいは、県外在住の参加者と奈良の企業がともに、新規事業(なりわい)づくりに取り組むプロジェクトです。
奈良で働き・暮らすという選択肢を増やすため、「移住×起業」を提案するプログラムとして、2023/8/19にキックオフを迎え、4ヶ月間にわたって新規事業に取り組んできました。
11/25に開催された第5回目は、受入先企業に向けた最終発表です。

「動画は、ちゃんと表示される?」「プレゼンテーションの流れをもう一度確かめよう。」
開始の1時間前に、会場である「BONCHI」に到着すると、すでに参加者たちの姿が。お昼ごはんを食べながら、発表の最終調整に取り組んでいました。

靴下メーカーさんを訪ね、靴下の端材や糸をいただいてきたのがペーパルチーム。一方の錦光園チームは、「お楽しみに」と不敵な笑みを浮かべています。どうやら、何かサプライズがあるようです。
はじめに
4階のコワーキングスペース「TEN」には、運営事務局のみなさんから地域の企業の方まで、30人以上が集いました。
この日は奈良で事業を営む3事業者さんも見学に。その姿がありました。

はじめに、仲川げん市長。視察で訪れた世界の事例に触れました。
合計特殊出生率3.0と人口増加の著しい国ウズベキスタンでは、平均賃金も年々上昇。また、オーストラリアの首都キャンベラ。奈良市と近い人口規模で、電力の再生可能エネルギー割合を100%にしました。
「これまであまり接点のなかった国で、大きな変化が起きています。日本は、低成長といわれる時代。“ガラガラポン”と社会のパラダイムシフトが起きるときでもあります。今まで舞台裏を支えてきたひとが表舞台に立つことだってあるでしょう。そうした中で、いい顧客と出会い、いい仕事が生まれ、いいまちが育っていく。奈良が世界から注目される時代も考えられると思います」
続けては、ならわいの事務局を務める久美さん。自身にとっても大切な事業であるというならわいへの熱意とともに、開会宣言です。

「みなさんにとって、ならわいはどんな時間でしたか?とっても暑い8月に迎えた第1回目は、チームの相互理解を深めるワーク、そしてフィールドワークを行いましたね。続く2、3回目は企画検討、4回目は中間発表を行いました。そしてすっかり寒くなった11月の今日、最終発表を迎えます…!」
「この4ヶ月間、事務局としてみなさんがチャレンジして、なりたい自分になっていく姿を間近で見せてもらいました。ならわいを通じて、わたし自身も大きく変化しています。実は、こうして人前で話すのは苦手。上手な司会はむずかしいけれど、目の前のひとに誠実に、素直に接することを心がけました。」
ならわいの特徴は、変化し続けることにあります。参加者が変わるのはもちろんのこと。運営に関わるBONCHIのメンバーや奈良市役所のみんなも、お互いに変化していきます。
チーム発表
各チームからの最終発表に移ります。
錦光園
錦光園の長野さんが見守る中、発表がはじまります。
墨をテーマとしたプロジェクトをより多くの人に伝えるため、チームでは1分間の動画を制作しました。

はじめに流れたのは、錦光園の長野さんのインタビューでした。
「このまま放っておくといくらでも下に落ちていく産業を、どうしていくか。」
「どうしていくか。」という声に伴走するため、チームは3年間の中期計画を立てました。そして、初年度にあたるならわいでは「おはじき墨」の販路開拓に取り組みます。


手軽に墨を楽しんでほしいという思いから長野さんが開発。干支をモチーフにしており、12種類あるおはじき墨。その販売方法として浮かんだのが、カプセルトイでした。
商品名は「奈良みやげ 奈良墨Kou.香」。
5年間で市場規模が2倍に成長しているカプセルトイを活用することにより、国内外の観光客のみなさんに届けられるお土産を提案します。

会場に配られた墨。カプセルを開けると、調湿の役割を果たす桐箱が現れます。ふたを開くと、墨の匂いが立ち上ります。筆記用具としてもつかえ、香りを楽しむこともできます。新たな伝え方から価値の創出をめざしました。
また、カプセルには、手頃な価格でにぎりすみ体験を行えるチケットも同封。錦光園さんとのタッチポイントを増やすための取り組みです。
そして最後に、不敵な笑みを浮かべたゆうほさんからサプライズ発表が。
「合同会社のびしろを設立します」

これには、錦光園の長野さんやメンターの田島さんもびっくり。
「伴走型として墨を盛り上げていく会社です。すでに受注をいただいており、会社設立を決めました」
受入先企業の声
さて、受入先企業の反応は?
「会社つくるんですか!」と錦光園の長野さんも寝耳に水。
「ちょっと、ほんとうに、まったく聞いていない…のでけっこうなびっくり具合で、なんていっていいのかわからないんですけど(笑)。正直、細かいところはいいんです。みんなと出会って、さんざんやりとりさせていただいて、深く関わっていただいて。今日は、中間発表のさらに上を行く提案がもらえてうれしいです。この3人となら、きっと深く長く関係性をつくっていけるだろうと思います。」

つづけて、4ヶ月間にわたりチームのメンターとして伴走してきたメンターの田島さん。
「会社設立の話は、わたしも知らなかったんですよ…!心の底から墨に惚れこんだからこそ、生まれた提案だと思います。」

「思い返すと、第1回目初日からめちゃめちゃ前のめりな3人でした。2回目にはいきなり3年間の中期計画を提案して。長野さんともめちゃめちゃ沢山やりとりをしていたし、『田島さん、早く墨の営業に行きたいんです』といわれて『待って!もうちょっと企画を固めてから』とセーブをかけた場面もありました。」
「これでようやく羽ばたけますね。長野さんがこれまで散々ぶつかってきた壁に、みなさんはこれからやっとぶち当たれますね。応援しています!」
Good Job!センター香芝

Good Job!センター香芝の森下さんが見守る中、発表がはじまります。
Good Job!センター香芝へ9回足を運び、対話を重ねることで、Good Job!センターが大切にしている価値観を受け取るところからプロジェクトをはじめたチーム。
新規事業として「Good Job!センター香芝学びのおすそ分けツアー」を提案します。

「4ヶ月間かけて関わっていくなかで感じた、Good Job!センター香芝の目指す社会を一緒につくっていくプロジェクトです。参加者も、Good Job!センターのメンバーも。関わる一人ひとりの可能性を尊重し、みんなで成長のプロセスをともに歩めるようにプロジェクトを設計しました。」
ツアープランの一つは、Good Job!センター香芝のメンバーとともに、お蚕さんの世話と桑の葉茶づくりを行うもの。
また、建築や福祉に興味のあるひと向けのツアーも企画。こちらは、メンバーに施設を案内してもらうことに加え、張子の絵付け体験付きです。

ツアー後の関係性も設計しています。
Good Job!センター香芝の目指す社会を一緒につくるパートナーになることを提案。
受入先企業の声
さて、受入先企業の反応は?
Good Job!センター香芝の森下さんに話をうかがいました。

「はじめに、みなさんにお礼を伝えたいです。Good Job!センター香芝の活動の“根っこ”を隅々まで読み込んでくださってうれしいです。障害のあるひとたちと一緒に伝えていくことで、よりよい社会をつくっていく。そのための窓を、たくさん開いてくれました。」
「実施に向けた細かい配慮もあちこちに感じられました。たとえば開催を、おかいこさんが脱皮を終えて落ち着いた“3令(さんれい)”の時期に設定していること。また、お茶づくりもツアーに盛り込むことで、参加の間口を広めているのもいいなと思いました。」
つづけて、4ヶ月間にわたりチームのメンターとして伴走してきたメンターの安田さん。

「チームの3人の『学ばせてもらう』という姿勢が前提にあって、Good Job!センターの理念を、WebやSNSから読みこむ。さらには現場での対話から深く読みとる。そうしたフィールドワークから生まれたプロジェクトですね。ツアーアテンドを、障害のあるひとにしてもらうことが特徴だと思います。ぼくもツアーに参加したいです!」
「それから、チームワークもうまく行きましたね。もりいさんのアイデア力、『Good Job!センターのひとなのでは』と思うくらい通いつめるまつうらさんの行動力、にとべさんの形にする力。」
ペーパル

ペーパルの矢田さんが見守る中、発表がはじまります。
「目指したい世界があります、廃棄されているくつしたを紙の原料にしたいんです。」という一言からはじまった発表。
「繊維業全体で年間4.5万トンもの廃棄があり、くつしたに限っても、年間生産量の5%にあたる180tが産業廃棄物として処分されており、1800万円の廃棄費用が発生しています。」
「奈良県は、くつしたの国内シェアが59%と日本一なんです。そこで靴下ペーパーを商品化。サステナブルなイメージを普及したい企業向けに、くつしたの帯やハンガー、宅急便用箱、あるいは収納ボックスなどに展開してもらいたいです。」
チームが奈良県内のくつした工場を見学すると、次のことがわかりました。
「綿花の一部を栽培から手がけるメーカーにおいては、収穫後の種の処分費も発生していました。また、廃棄される糸よりも、未利用で処分される残糸が多いことも明らかになりました。廃棄糸や残糸から紙をつくる試験を、ペーパルさんと進めていきたいです。」
「今日の市長のお話にもあったように循環型地域を推進することで、奈良を世界から注目されるまちにしたいです。」

受入先企業の声
さて、受入先企業の反応は?ペーパルの矢田さんに話をうかがいました。

「ならわいを通じて、廃棄素材のアップサイクルを一緒に考えられる仲間ができてうれしいです。奈良で靴下が有名なことは知っていましたが、廃棄糸よりも残糸が多いのは初耳。開発する商品によっても、紙の試験内容は変わっていきます。どういう商品が考えられるのか。引き続き考えていけたらと思います。」
つづけて、4ヶ月間にわたりチームのメンターとして伴走してきたメンターの佐藤さん。

「1回目のワークショップで、3人ともアイデア出しが得意なタイプだと判明。このチームはいったいまとまるのかな?とも思いましたが、『奈良につながるものにしよう』という方向性を決めてからは、おかむらさんがアイデアを出して、つぼねさんが調べて、れいかさんがまとめる。チーム内の役割も決まっていきましたね。ぜひ試作ができたら。」
ゲストトーク

続けてのゲストトークは昨年に引き続き坂本大祐さんです。
この場では、参加者からの質問も飛び交いました。
ゆうほさん「坂本さんの話のなかで『都会では貨幣経済が8割で信用経済が2割、地方では貨幣経済が2割で信用経済が8割』という話が印象に残りました。ぼくは今後奈良で仕事をしていく上で、信頼を勝ちとるためにどうしたらよいでしょうか。」

坂本さん「お金は秒単位で稼ぐひとがいますけど、信頼はそうもいかない。地方で起業をするうえで、最初に行き当たる壁はそこじゃないかな。ぼくは、資本経済のなかで時間を使うことを価値だと感じてくれるひとと仕事をしたほうがいいと思っていて。だから、自分の時間をどこにベッドしたいか。それは簡単に奪われないものだし、生きる場所に投資した方がいいんじゃないですかね。ぼくはさいきん、あんまりお金なくても大丈夫だなと思えるようにもなりました。東吉野村で18年間やっているから、なにかあったときに手伝ってもらえるんですね。ゆうほさんは、どこに自分の時間を張りたいですか?」
参加者のこれから

ペーパルチーム

つぼねさん
ならわいの機会が貴重だと思っています。ふだん会社員をしていると、なかなか将来のことを同僚と話すこともなくて。副業とか、週末起業という言葉もどこか遠い世界の話に聞こえます。この場では、そういう将来の話をできるひとと出会えたのがとてもよかったです。 会社にいると与えられた課題に取り組むのが仕事ですが、ならわいでは課題設定から取り組むことが求められる。「誰のためにやるの?」「社会はどうなったらいいの?」「自分は何がしたいの?」その問いかけが、脳を活性化してくれました。こういう機会をありがとうございます! |
れいかさん
移住を考えてはいたものの、もともとノーマークだった奈良県。ならわいをきっかけに通うようになりました。 「新規事業を立ち上げるのは難しそうだな。」とうすうす感じてはいたけれど、やってみたらちゃんと難しいし、時間もかかるものだとわかりました。 知らないひとたちと関わりながらプロジェクトに取り組むのが新鮮で。期間が決まっているからこそ、頑張れた面もあります。この先の自分の仕事をどうしていくか。考えていきたいです。 |
おかむらさん
やっぱり奈良が好き。自分の時間とお金を使って奈良へ来るたび「すごいことだな」と感じていました。チームメンバーからも同じ熱意が伝わってきたので、自然と協力して一つのプロジェクトに向かっていけました。 あ、わたしは来月も奈良に来ます!今勤めている会社で、林業に関わることがあり、有給をつかって吉野へ。東京に住みながら、ひきつづき奈良と関わっていきたいです。 |
Good Job!センター香芝チーム

にとべさん
「時間ないし、参加にはお金もかかるし。」いつもだったら申し込まなかったんですが、今回は自分の気持ちに正直になったんです。気持ちが先に動きました。身近に障害のあるひとがいて、福祉に興味があったけれど、入り口がわからなくて。ここからGood Job!センター香芝のパートナーになっていけるように頑張ろうと思います。 わたしたちのチームは、ほんとうに性格がバラバラ。それぞれがないところを補い、よいところを活かすチームを組んでもらえてよかったです。この先、ちょっと移住も頭に入れつつ、いろんなことを前向きに考えていきたいと思います。 |
もりいさん
今の仕事を続けているだけでは出会えなかった「福祉」に出会えてよかったです。チームメンバーはどんなひとなんだろうという不安もありつつ、ふだんは一人で仕事をしているので、ミーティングそのものが新鮮でした。スライドのつくり方もそれぞれだったり、「それは違うんじゃない?」と思うことも、共感することもありました。 わたしは地元が奈良です。もう帰ることはないだろうと思っていたんですが、ならわいを通じて、「面白いところだな」「いつか帰ってきたいな」と思いました。「帰ってきたいな」という気持ちが強くなりました。 |
まつうらさん
Good Job!センター香芝は、とても安心できる場所でした。障害のある方にとてもやさしくしてもらえて、障壁を感じていたのは自分のほうだったんだと気づきました。みんながありのままでいるから、自分もありのままでいいんだと思えました。 わたしは、今年奈良に移住しました。これまではデザインの仕事をしてきたんですが、今後はキャリアコンサルタントの資格を活かし、障害のあるひとのキャリア支援に挑戦してみたいです。 最後になりますが、チームが迷走しているときも、見守り育ててくれたメンターの安田さんに感謝です。 |
錦光園チーム

かながわさん
15年やっていた教員の仕事をやめたタイミングで事務局の久美さんと出会って。最初は、「民間企業で働いているひとのなかに、自分が行ったら場違いかな」と不安でした。でも、今はこの4ヶ月間が終わっちゃうのがすごくさびしいです。 わたしは、自分のやりたいことを言葉にするのが得意ではありませんでした。でも、このチームは違いました。小さくても「こういうことやりたいんです」と声にすると、おかみがアイデアをばーっと出してくれる、そしてゆうほくんが形にしてくれる。おかげで「自分ってこういうこと考えているんだ」「こういうことを言えるんだ」と気づけた4ヶ月間です。やって良かったな。満足です。 10年間奈良に住んでいたわたしにとって、奈良は、自分をアップデートしていくところ。来るたびお店がはじまって、移住者もあらわれて、まちがつねに動いているのを感じます。今やりたいことは、障害者保育。遊びは最大の学び。お母さんと子どもがほっとできる場をつくりたいんです。 |
ゆうほさん
営業を学びたくて日経Xplorerを読んでいたら、たまたまBONCHIの記事を発見。奈良には特に興味がなかったんですが、ならわいに参加しました。 来年度に向けて一つ提案があります。新商品を開発する2チームと違い、錦光園チームは既存商品から新しい価値をつくるプロジェクトでした。ならわいの考える新しい価値とはどういうことか。あらかじめできること・できないことの境目が見えていると、もっとよかったなと思います。 |
おかみさん
雅楽の奏者をしているわたしは、前々から、錦光園さんと「伝統」の文脈でつながれたらと思っていました。営業の真髄を学びたいゆうほさん。新規開発を学びたいかながわさん。オリジナルのものをつくりたいわたし。 今回、ゆうほくんが会社を立ち上げるので、知り合いの宮司を訪ねると受注につながりました。2024年1月25日には販売開始です。わたし自身も、雅楽にちなんだオリジナルの墨を依頼中。だんだん広まっていくのではないかな。 |
むすび

最後のあいさつは、奈良市役所の柏木さん。
ならわいを産業政策課の顔となる事業に育てたいんです。「今年もよいものになるかな?」わくわくと不安が隣り合わせの気持ちで今日はBONCHIに来ました。ならわいには、並々ならぬ思いがあります。 今年に入り、うれしいことがありました。市職員の採用面接で「ならわいをしている産業政策課に惹かれました」という声をいくつも聞いたんです。実は市長も、ならわいのことになると「こうしては」「ああしては」とアイデアが止まりません。去年より今年、そして今年より来年ですね。ぜひ来年は、今年参加したみなさんといっしょに盛り上げていけたらうれしいです。 |
4ヶ月間にわたるならわいは、11/25に最終発表を迎えました。
発表後に行われた懇親会では、今後に向けた話が繰り広げられていました。
「法人形態って、一般社団法人と株式会社のどちらがいいんでしょうか?」と錦光園チーム。「試作品をつくるにはどれくらい費用がかかるんでしょうか?」とペーパルチーム。「これからのやりとりをどうしましょう?」とGood Job!センター香芝チーム。
2023年度のプログラムが終了を迎えた今日、それぞれのならわいがはじまります。